済生会宇都宮病院における医師の働き方改革への取り組み
−改革以前から良好であった勤務体制に生じた制度起因の歪み−

吉政 佑之

栃木県済生会宇都宮病院における医師の働き方改革への取り組み
−改革以前から良好であった勤務体制に生じた制度起因の歪み−

済生会宇都宮病院
吉政 佑之

済生会宇都宮病院は、栃木県救急救命センターを併設する644床の地域基幹病院であり、産婦人科は栃木県央65万人超の医療圏を担っている。地域周産期母子医療センター、バースセンター、生殖医療センターを有し、周産期、婦人科腫瘍、生殖医療、女性医学、鏡視下手術、ロボット手術まで幅広い診療を行い、各領域の研修施設としての役割も果たしている。

当院のコンセプトは、「なんでもできる野戦病院」として領域横断的かつ豊富な症例を提供しながら、多様な働き方を尊重する点にある(スライド1)。

スライド1

タスクシフト・シェアを活用し、領域横断的かつ豊富な症例数によって医師確保を図る一方、時短勤務や育児休業、当直免除など、各医師の事情に応じた柔軟な勤務設計を行い、多様な働き方を尊重する文化を醸成することで、医師の持続可能性を見据えた運営を実践していた。これらを支えるためには、常勤・外勤を含めた十分な人員確保が不可欠であり、当院では働き方改革以前から、医師の健康を基盤として「働きやすさ」と「やりがい」を両立する体制が構築されていた。

しかし2024年度の制度施行により、状況は変化した。働き方改革の理念自体は当院の方針と相反するものではなかったが、既に一定水準に達していた勤務環境をさらに改善する余地は乏しく、結果として新たな負担や歪みが顕在化した。最大の変化は、労務管理の厳格化が目的化した点である。タイムカード打刻の徹底、時間外労働申請の義務化、勤務予定表の作成と承認手続きが強化され、出退勤や残業申請を怠った場合には、人事考課D評価、すなわち賞与減額という明確な不利益が生じる体制となった。

さらに時間外労働の上限管理が徹底されたことで、上限を超える勤務は自己研鑽扱いとなり、完全休養日であっても実労働が生じた場合に打刻できない運用が求められた。週40時間ルールの導入により、従来確保されていた研究日を維持するために別日に残業を行う必要が生じ、平日の学会参加も休日出勤と振替対応を余儀なくされている。労働時間管理に違反すれば病院がB水準を失い、診療報酬返還という経営上のリスクを負う以上、制度順守は不可避である。しかしその結果、医師の勤務実態に制度を合わせるのではなく、制度に医師を適合させる構造が生じた。これにより、働いた分を正確に申請するほど評価や収入が低下し得るという逆説が生まれている。

本来、働き方改革の目的は医師の健康を守り、医療の質と安全を維持することにある。当科では改革以前から、診療体制や役割分担の工夫により、医師が継続的に働ける勤務環境が既に成立していた。そのため制度導入後も診療需要や業務量そのものは大きく変化していない。一方で、労務管理の厳格化により労働時間の上限遵守が最優先事項となった結果、実際の運用としては業務効率化によって労働時間を削減することは叶わず、診療内容を中途半端に切り上げる、あるいは教育・指導に充てていた時間を削減することで時間を合わせる対応が求められるようになった。これにより、症例への十分な関与や若手医師への教育機会が減少し、仕事量や症例経験の質的・量的低下を招いている。さらに、時間管理を優先した結果として給与水準の低下も生じ、これらが相まって医師のやりがいや職業的満足度の低下へと直結している(スライド2)。

スライド2

結果として、従来維持されていた医師確保・維持の好循環は崩れつつあり、現在当院は医師減少のリスクに直面している。こうした影響は、既に一定水準の勤務環境を構築していた地方病院ほど顕在化しやすく、地域医療の持続性そのものを損なう可能性を内包している。

全国的にも、働き方改革開始後、制度順守は達成された一方で、中堅医師の負担軽減にはつながらず、また教育機会は減少したとの報告がみられる(JAOG Info No.87)。当院の実感とも一致しており、数字上の改善が優先される中で、医療の継続性や教育機能、地域医療の安全確保といった本質的役割が制度によって圧迫されつつある。とりわけ地域中核病院では、症例数の減少が医師定着と教育の双方に影響し、長期的には医療提供体制の弱体化を招きかねない。

今後求められるのは、形式的な労働時間管理ではなく、医師のキャリア形成や教育環境を支援し、地域医療を担う病院を実効性ある形で支える制度設計ではなかろうか。当院としては、引き続き個々の医師の働き方を尊重しつつ、制度の負の影響を最小化し、持続可能な医療提供体制の維持を目指していきたい。

事例紹介