当院と県内周産期母子医療センターでの働き方改革の現状と課題

倉林 工

新潟県当院と県内周産期母子医療センターでの働き方改革の現状と課題

新潟市民病院産婦人科
倉林 工

1.新潟市民病院における現状と課題

当院は677床の第3次救急を担当する高度急性期病院で総合周産期母子医療センターである。2016年1月に後期研修医自死が起こり、労災認定、刑事告発、労基署による立ち入り調査があり、2018年4月から業務改善推進委員会が発足した。同委員会では全医師の時間外勤務状況の把握、各種対策の目標達成度などが厳しく評価される。また、時間外勤務の長いスタッフへの面接や自己申告時間と電カル稼働時間の差異の調査などを行い、病院全体としてA水準の実現を目指して取り組んでいる。
当院産婦人科は、他の数診療科と同様に時間外勤務の多い診療科であった。A水準実現のための目標医師数として、「2024年春までに、夜勤可能な常勤の産婦人科医を10名(現在9名+非常勤)、全常勤医を12〜13名(現在11名)とする」とした。2023年春から新潟大学のサポートによる増員があり、目標達成に近づきつつある。当科では労働環境の改善対策として、(1)待遇:夜勤体制にて改善、(2)グループ制で夜間休日は日夜勤者に一任、(3)夜勤明けは午前中に帰る、(4)非常勤医師による夜勤、(5)業務量の均一化がある。これらの対策の結果、時間外勤務(賃金支払いベースと労基法上)や夜勤明けに続く超勤時間は減少傾向にある(表1)。

当科の課題として、(1)産婦人科医師の高齢化(2026〜2027年に4人が定年退職)、(2)MFICUの二人当直体制、(3)研修医に選ばれるような研修指定病院の質の維持・向上がある。

2.新潟県内の周産期母子医療センターの現状と課題

本調査は2023年9月に、新潟県内の総合・地域周産期母子医療センター7施設(済生会新潟病院、県立新発田病院、長岡赤十字病院、長岡中央綜合病院、魚沼基幹病院、県立中央病院、当院)の産婦人科責任者へのアンケートにて行った。勤務形態が複雑な新潟大学は除いた。各センターの勤務形態と宿日直許可を表2に示す。

常勤医の数は、今年度になり「総合」では増員されたが、「地域」では現状維持か減員が目立つ。新潟県内全体の産婦人科医不足の影響は大きい。7施設ともA水準を目指し、宿日直許可に関しては「総合」では申請せず、「地域」では出張医のために多くは申請・許可されているが、宅直(オンコール)体制のところも数施設ある。宿直料、宅直料、経腟分娩1件に対する時間外勤務、分娩手当を表3に示す。

宅直施設では宅直料が0円か高くても3,000円、分娩で呼ばれた場合に実労働時間で申請となっている。すなわち、分娩がなければ夜間16時間の拘束はただ働きで労働量にはカウントされず、深夜の病院からの電話に対する応答もボランティアである。多くの管理経営者が宿日直や宅直は診療科間で同一と考えているならば、産科の夜間休日の拘束での緊急性やストレス度は他科のそれとは全く異なることに対する理解不足と言わざるを得ない。
結論として、特に地方では、働き方改革による産婦人科医のQOL改善が見込めない状況であり、将来の産婦人科医師のリクルートにも大きな支障となりうる。産科診療の特殊性として、宿日直や宅直時の拘束に対する労働量と待遇面での正しい評価がされるべきである。待遇面では、私見になるが、まず当座の対策として分娩手当等の大幅増(1分娩2〜3万円程度)が望まれる。

事例紹介