自己研鑽の取り扱い

医師の自己研鑽と労働
所定労働時間内の研鑽の取り扱い
所定労働時間外の研鑽の取り扱い
労働に該当しない研鑽を行う条件
研鑽が適切に行われる環境の整備
おわりに

医師の自己研鑽と労働

医師の自己研鑽が労働時間に含まれるか否かの判断には、議論が続けられてきました。研鑽は勤務医が診療等その本来の業務の傍ら、自らの知識の習得や技能の向上を図るために行う学習、研究等と定義されます。医師については、自らの知識の習得や技能の向上を図る研鑽を行う時間が労働時間に該当するのかについて、判然としないという指摘があり、労働時間の適切な取り扱いのため、『労働に該当しない研鑽』の明確化が職場と上司に求められます。

厚生労働省医政局が実施する医師の働き方改革に関する検討会では、所定労働時間内か否か、所定労働時間外に行われる場合には上司の指示の有無診療上必要な行為か否かにより研鑽を3類型に分けて、労働時間該当性についての解釈を加えています。
医師の働き方改革に関する検討会資料:医師の研鑽と労働時間に関する考え方https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000404613.pdf

所定労働時間の研鑽の取り扱い

所定労働時間内に勤務場所において、研鑽 (参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、業務に必要な学習等)を行う場合、当該時間は労働時間となります。現場における判断は、当該医師の上司がどの範囲を現在の業務上必須と考え指示を行うかによります。

所定労働時間の研鑽の取り扱い

原則として上司の指示による場合には、時間外の研鑽は労働時間に該当します。一方、上司の指示によらずに行われる場合には、在院して行なっても時間外の研鑽は労働時間に該当しません。
研鑽の内容により、次のように時間外業務の労働時間該当性を判断します。

  • 1.一般診療における新たな知識、技能の習得のための学習
    「診療ガイドラインについての勉強」「新しい治療法や新薬についての勉強」「自らが術者である手術や処置などについての予習や振り返り、シミュレーターを用いた手技の練習」などが該当し、診療の準備又は診療に伴う後処理として不可欠なものは、労働時間に該当します。
    ただし、業務上必須ではない行為を、上司の明示・黙示による指示なく、自由意志に基づき行う時間については、在院して行う場合でも労働時間に該当しません。

  • 2.博士の学位や専門医を取得するための症例研究や論文作成
    「学会や外部の勉強会への参加、発表準備等」「院内勉強会への参加、発表準備等」「臨床研究にかかる診療データの整理、症例報告の作成、論文執筆等」「大学院の受験勉強」「専門医の取得・更新にかかる症例報告作成、講習会受講等」について、不実施による不利益が課されているなどその実施を余儀なくされている場合や、研鑽が業務上必須である場合、業務上必須でなくとも上司が明示・黙示の指示をして行わせる場合は、労働時間に該当します。

    ただし、上司や先輩から論文作成等を奨励されている等の事情があっても、業務上必須ではない行為を、上司の明示・黙示による指示なく自由意志に基づき行う時間については、在院して行う場合であっても労働時間に該当しません。
    <自由な意思に基づく研鑽と考えられる例(労働時間に該当しない)>
    ・ 勤務先の医療機関が主催する勉強会であるが、自由参加である
    ・ 学会等への参加・発表や論文投稿が勤務先の医療機関に割り当てられているが、医師個人への割り当てはない
    ・ 研究を本来業務とはしない医師が、院内の臨床データ等を利用し、院内で研究活動を行っているが、当該研究活動は、上司に命じられておらず自主的に行っている

  • 3.手技を向上させるための手術の見学
    上司から奨励されている等の事情があっても、業務上必須ではない見学を、上司の明示・黙示による指示なく自由意志に基づき、自ら申し出て行う時間については、見学やそのための待機を在院して行う場合であっても労働時間に該当しません。

    ただし、見学中に診療を行った場合については、当該診療を行った時間のみ労働時間に該当します。また、見学中に診療を行うことが慣習化、常態化している場合については、見学の時間全てが労働時間に該当します。

    医師の宿日直許可基準・研鑚に係る労働時間に関する通達(厚労省 令和元年7月1日)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000526011.pdf

労働に該当しない研鑽を行う条件

労働に該当しない研鑽を行う場合には、医師自ら上司に申し出、受けた上司は下記を確認することが求められます。

  • ・本来業務及び本来業務に不可欠な準備・後処理のいずれにも該当しないこと
  • ・当該研鑽を行わないことについて制裁等の不利益はないこと
  • ・上司として当該研鑽を行うよう指示しておらず、かつ、当該研鑽を開始する時点において本来業務及び本来業務に不可欠な準備・後処理は終了しており、本人はそれらの業務から離れてよいこと

研鑽が適切に行われる環境の整備

時間外勤務に突発的な必要性が生じた場合を除き、労働に該当しない研鑽を行う医師には権利として労働から離れることを保障されている必要があります。労働時間該当性を明確化する環境整備に取り組みましょう。

  • ・労働から離れている保障を明確にする。(場所・服装による区別など)
  • ・医療機関ごとに、研鑽に対する考え方や手続を明確化し、書面等に示す
  • ・研鑽に対する考え方や手続を院内全職員に周知する
  • ・本人からの研鑽の申し出や、上司から当該医師への指示の記録を保存する(労働基準法第109条では労働に関係する重要書類を3年間保存することとされている)

研鑽に係る労働時間の通達の手続きについては、個別に月間の研鑽計画をあらかじめ作成し上司の承認を得る、時間外に労働に該当しない研鑽のため在院する申請を行う、などの形が考えられます。また、宿日直許可のある場合に、宿日直中に労働に該当しない研鑽を常態的に行うことは宿日直許可を取り消す事由になりません。

おわりに

自己研鑽は医療の質の維持のために不可欠ですが、勤務医自身の理解と協力、上司の評価・判断、メディカルスタッフの理解が重要となります。適切な労務管理のため、自己研鑽の扱いをあらかじめ職場で取り決め、研鑽に関わる環境の整備を進めましょう。