産婦人科医療供給体制と働き方改革総論

はじめに
到達目標
産婦人科医療供給体制と労働時間
医師の労働時間管理の適正化に向けた取組み
効率よく働けるシステム構築
おわりに

はじめに

2021年5月21日、改正医療法が成立しました。これにより、今までは医師は対象外となっていた『罰則付き時間外労働上限規制』が、2024年4月から医師にも適用されます。この改正により、労働時間の規制に加え、医師の健康確保のための面接指導や連続勤務制限などが義務付けられ、長時間労働となる医療機関には医師労働時間短縮計画の策定が求められるようになります。

到達目標

2024年4月までに到達しなければならない時間外労働上限(医師の時間外労働時間の上限について〜A・B・C水準とは〜)と健康措置(追加的健康確保措置とは)の詳細は、別項をご覧ください。原則、全ての施設は過労死ラインに合わせて設定されたA水準(年間時間外労働時間960時間以内)を目指すことになり、暫定措置として連携B水準、B水準が置かれています。

  • ・連携B水準は地域医療体制確保のために医師を派遣する施設で、自施設の時間外労働時間はA水準を満たし、外部施設での勤務を加え、1860時間以内とするものです。
  • ・B水準は三次救急など救急医療やがん診療に特化した施設で、自施設の時間外労働時間を1860時間以内とするもので、それぞれ都道府県ごとに指定されます。
  • ・C-1、C-2水準は初期研修医・専攻医や特定高度技能研修者を雇用する施設が該当します。

また、健康措置として面接指導は全ての施設で義務化され、連続勤務時間制限や勤務間インターバルなど休憩時間の確保は、A水準では努力義務となり、それ以外の全て(連携B水準、B水準、C-1水準、C-2水準)では義務化されます。

産婦人科医療供給体制と労働時間

2021年1月に実施した日本産婦人科医会施設情報調査2021(対象:全産婦人科施設5,230施設、有効回答:5,146施設、回答率:98.4%)より、産婦人科医療供給体制と労働時間に関するデータを示します。産婦人科施設は15年間で5,946施設から4,977施設に16%減少しました。婦人科施設の変化は少なく、分娩を取扱う一般病院と診療所の減少が著明でした。全体の常勤医師数は15年間で19%増加し(2006年: 10,083名,2020年11,976名)、周産期母子医療センターでは2倍以上になっています(図1)1)

図1.産婦人科施設数と医師数の推移

時間外在院時間を施設機能ごとに検討すると、A水準を超過しているのはいずれも分娩取扱い施設になっています1)。ただしこの調査は各施設の平均を集計したもので、施設平均では基準を満たしていても、その施設の中にはより長時間在院に及ぶ勤務医師がいる可能性があると推察されます。今回の法改正では施設に所属する勤務医全員が水準を満たすことが義務化されるため、その対応が問題となります。さらに問題となるのは副業・兼業に関する規定です2)。労基法第 38 条第1項では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されており、医師においてもこの基準が適用されます。

日本産婦人科医会勤務医部会の2020年の調査では、自施設の時間外在院時間に外部施設の在院時間を加算すると、全ての分娩取扱い病院の年間時間外在院時間は平均1,934時間となり、B水準、C水準をも上回り、働き方改革に向け深刻な問題となることが想定されます(図2)1)。「働き方改革関連法案」の勤務時間遵守を目指すことと、地域医療供給体制や、勤務医師の経済的補償を確保することは相反する側面があるため、副業・兼業への対応は、医療界の今後のあり方を位置付ける意味で極めて重要な課題となっており、検討が続けられています。

図2.分娩取扱い施設における自施設と外部施設を含めた年間時間外在院時間

医師の労働時間管理の適正化に向けた取組み

施設として取り組むべきこととして、適切な勤怠管理の整備、36協定の自己点検と見直し、宿日直許可の取得、自己研鑽の取り決めなど、勤務体制の整備に取り組まなければなりません3)

1)勤怠管理、自己研鑽、宿日直許可

まず、タイムカード、ICカードなどにより出退勤時間を記録し、上司がそれらを把握することが、働き方改革の第一歩です(適切な労働時間管理とは)。この対応に当たり重要な点は、在院時間における実労働時間の評価です。在院時間には、診療業務以外に自己研鑽(自己研鑽の取り扱い)や宿日直(宿日直の取り扱い)などが含まれ、それを全て区別して把握することが求められます。

医師の勤務時間制限と、医学・医療の研鑽時間確保や医師数確保とは、二律背反の課題となっています。自己研鑽は医療水準確保の観点から不可欠であり、宿日直(通常勤務と異なり基本的には休んでいると見なせる時間)も医師数確保の観点から必要なものとして設定されていますが、これらをあえて勤務時間に算定しないことで実際の在院時間は短縮されにくくなります。働き方改革を意義のあるものにするためには、使用者や管理者だけでなく医師一人一人が理解した上で、予め自己研鑽の範囲等について取り決めを定めるようにしましょう。また、宿日直の取扱いにより在院時間が長くなる場合には、法遵守さえしていれば良いというわけでなく、医師の実際の心身の健康管理を重視しましょう。

2)36協定の見直しと自己点検

労働者が時間外労働を行うためには、労働基準法第36条に定められる労働時間の延長に関し、使用者と労働者間において書面による協定(36協定)を結び、行政官庁に届けなければなりません。(時間外労働と36協定)

2024年度以前であっても、36協定の締結が必要です。その定める時間数を超えて時間外労働をさせていないかの自己点検を行うこと、必要に応じて見直しを行うことが示されています。

効率よく働けるシステム構築

以上を踏まえて、施設ごとに勤務時間短縮に向けた取り組みを行うことになりますが、各施設の特性や状況が異なり答えは一つではありません。大切なのは勤務時間短縮のための選択肢を増やしておくことです。

厚生労働省の『医師の働き方改革に関する検討会』では、医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取り組みの具体例として下記を挙げています。

・他職種へのタスクシフティング(業務の移管)
・女性医師等に対する支援
 参考:日本産婦人科医会 女性医師支援情報サイト (https://www.jaog.or.jp/sep2012/ogwd_supporting/index.html)
・複数主治医制(チーム制)の導入
・勤務時間外に緊急でない患者の病状説明などの対応を行わないこと
・勤務間インターバルや完全休日の設定

本HPでは今後働き方事例紹介で好事例や苦労した経験について紹介していく予定です。地域性、施設機能、人員数に応じ、可能な取り組みを積極的に取り入れていきましょう。

おわりに

働き方改革を達成するため、唯一の特効薬があるわけではありません。B水準・C水準獲得、自己研鑽の明確化、宿日直許可、チーム医療、タスクシフティングなど、少しでも選択肢を増やしておくことが重要です。地域性、施設機能、人員数に応じた様々な工夫により、次世代に働きやすい環境と持続可能な産婦人科医療の提供を目指しましょう。