
宮崎県宮崎大学における働き方改革の現状と
医師少数県としての遠隔胎児心拍数モニタリングの活用
宮崎大学医学部附属病院産婦人科
桂木 真司
はじめに
令和6年度に働き方改革が実施されるにあたり、宮崎大学では前年度に宮崎大学病院内にて医師438名を対象に時間外労働に関する調査が行われた。医師少数県であるが、その中で宮崎大学は県内唯一の大学病院であり、特定機能病院としての役割も担っている。また少子高齢化の時代ではあるが、切迫早産、妊娠高血圧症候群、NICUにおいては超早産児の数などは横ばいであり、引き続き周産期医療においてもハイリスク妊産婦に対する対応は地域全体で取り組む必要がある。本稿では[1]宮崎大学における時間外労働の現状、[2]遠隔胎児心拍数モニタリングシステムを用いた地域連携の現状に関して述べる。
[1]宮崎大学における時間外労働調査
調査内容は1)時間外労働の実際、2)水準の指定、3)NICU・MFICU水準の指定について、4)時間外労働者に対する面接の実施、5)医師の勤務時間の管理について。
1)令和5年度の医師の時間外労働時間の実績
平均の時間外労働は年間506時間、産婦人科医師は675時間、最長労働時間は1,792時間であった。年間960時間以上の時間外労働を行っていた者は59人(43%)、産婦人科11人(52%)であった。
2)水準の指定について
水準の指定においては令和5年度の実績を基に水準を決定している。
・A水準…外勤を含む年間の労働時間が960時間
※病院全体:379名(産婦人科:10名)
・B水準…外勤を含む年間の労働時間が960時間以上1,860時間以下
※病院全体:47名(産婦人科:8名)
・連携B水準…外勤を含む年間の労働時間が960時間以上1,860時間以下
(本院の年間の労働時間については、960時間以下)
※病院全体:12名(産婦人科:2名)
※C-1及びC-2水準の指定は受けていない。
3)NICU・MFICUの水準の指定について
2023年10月のNICU・MFICU当直医師について31日(平日21日、休祝日10日)。NICU41コマ小児科(5名)小児外科(1名)産婦人科(8名※)。MFICU41コマ産婦人科(15名※)
※重複あり、主婦の先生、裁量労働制(教授)含む
4)時間外労働者に対する面接の実施
最長の時間外労働は1月に140〜180時間であり、1か月あたり100時間を超える者に対しては面接指導が行われた。11〜16名/438名(2.5〜3.7%)に対して面接指導が行われた。
5)医師の勤務時間の管理について
勤務管理ソフト(富士通)を活用し、スマートフォン若しくはパソコンから、以下の項目のボタンを押すことにより、リアルタイム(地域貢献・外勤は後日)で入力し、勤務管理を行っている。主に次のような項目を経時的に入力する。「診療・運営・自己研鑽(労働時間対価あり)・教育・研究・自己研鑽(労働時間外対価なし)・当直(外勤先含む)・地域貢献・外勤・休憩・移動・マネジメント」。
[2]遠隔胎児心拍数モニタリングを用いた地域連携の現状
宮崎県における周産期医療ではその医療圏を県北、県央、県西、県南部の4つの医療圏に区分し、1つの3次施設(総合周産期母子医療センター)(宮崎大学病院)、6つの2次施設(地域周産期センター)、13の1次分娩施設がある。
宮崎県では2012年から県内の1次施設と地域の2次施設での分娩期の胎児心拍数モニタリングネットワークの導入を行ってきた。現在では全ての地域で1次施設における分娩時の胎児心拍数モニタリングが2次施設とネットワークで共有され、モニター画面を見ながら電話で情報共有を行う事ができる。1次施設においては2次施設とモニタリングを共有する安心感がとても高い。また2次施設においては患者の現状をリアルタイムに共有でき、迅速で適時の母体搬送へ向けた準備、指示が行える。本システムでの胎児心拍数モニタリングの同時共有を時間外労働の点から考察してみた。1次施設においては全ての胎児心拍数モニタリングを2次施設と共有する事で、自施設の医師、看護スタッフ以外に2次施設の医療スタッフに胎児心拍数モニタリングを見てもらえている安心感がある。1次施設と2次施設が胎児心拍数モニタリングを共有しながら分娩方法や分娩場所をリアルタイムに検討できるなど適時の判断に結びついている現状がある。1次施設は少数の医師で行っている施設が多く、胎児心拍数モニタリングの管理を少数の医師が連続して行う事は不可能であり、2次施設と共有する事で時間外労働を減らし、地域での安全な分娩に大きく貢献している。年間約6,000件の分娩時の胎児心拍数モニタリングが1次、2次、3次施設間で共有されている。
宮崎県全体でのこのような取組みは「ICTを活用した産科医師不足地域に対する妊産婦モニタリング支援」に援助を受けている。宮崎県のモデル事業を基に厚生労働省は働き方改革の概算要求を令和2年に起案した。
背景
他の診療科と比べて産科医師は少数であり、分娩取り扱い施設において、経験豊富な医師が確保できず、妊産婦モニタリングに必要な体制を十分確保できないために長時間勤務が余儀なくされているケースもあり、医師確保や勤務環境改善にあたっての課題となっている。
事業内容
複数の分娩取り扱い施設の医療情報をICTで共有し、核となる周産期母子医療センターにおいて、周産期専門の医師等が集約的に妊産婦と胎児をモニタリングし、遠隔地から現場の医師少数区域へ派遣された若手医師等に対し適切な助言を行う体制の整備を促進することにより、医療の生産性向上の観点をふまえ、勤務環境の改善を行う。
終わりに
宮崎大学内での調査においてはNICU・MFICU体制維持のためにさらなるマンパワー確保が必要である事が浮き彫りとなった。宮崎県内の2次産婦人科施設の多くは宮崎大学の関連病院である。今後1次施設、2次施設における時間外労働時間調査もふまえて医師少数地域における周産期医療システムの向上に努めていきたい。宮崎県では周産期医療現場における働き方改革を遠隔胎児心拍数モニタリングの共有により推進し一定の効果を上げてきた。今後実際どのような場面で具体的に遠隔胎児心拍数モニタリング共有が働き方改革の点で有効であったか研究として検証を進めていく予定である。