(2)改訂点のポイント

前回のガイドラインに基本的な問題点は無かったため,新規の変更点の追加が主であった.以下に変更点あるいは追加点を理由とともに略述する.

・妊娠後期にも再度不規則抗体検査を推奨:妊娠中に感作され緊急輸血時にトラブルとなった症例が報告されたため.

・自施設でのオーダから輸血までの時間を把握する:地域によっても時間帯によっても輸血提供システムが異なり必ずしも迅速に各種の輸血できないことがあるため.

・SI:1 以上を分娩時異常出血と明示し,FFP 融解を含めた輸血準備を推奨:用語を 学会用語集に合致させた.オーダを受けてから FFP を使用するためには融解する時間が必要なので,迅速な使用には早い時期の指示を輸血部が要望したため.

・病態解明のため一次施設でもフィブリノゲン採血を要望:一次施設では異常出血で あっても速やかな凝固系検査は施行が困難なことがある.しかし,高次施設への搬 送依頼や診断には産科危機的出血の診断基準の 1 つである凝固系検査値が有用であ るため.

・トラネキサム酸投与の推奨:多施設共同国際 RCT 研究(WOMAN study)で分娩後 3 時間以内のトラネキサム酸投与は産科異常出血による失血死を減少させる成績が 得られた.

・子宮腔内バルーンタンポナーデの推奨:開発途上国を含めた海外では 20 年以上前 から子宮腔内バルーンタンポナーデが分娩後異常出血で使用され効果を挙げていた. 前回のガイトライン以降にわが国でも保険適用が認められたため.

・フィブリノゲン 150mg /dL 以下単独でも産科危機的出血と診断できることを明記: SI:1.5 以上あるいは DIC の存在で産科危機的出血は診断されるが,産科出血の管 理の分岐点としてはフィブリノゲン 150mg /dL 以下が診断には重要な情報であるため.

・輸血は RBC(赤血球液):FFP を 1:1 に近い比率で投与することを推奨:産科危 機的出血では十分量の FFP の早期投与の有用性が実証され,海外の研究でもこの FFP の多い比率が推奨されているため.

・FFP は FFP-LR-240 製剤の使用を推奨:FFP 投与の重篤な副反応である輸血 関連急性肺障害の原因と考えられている抗白血球抗体の極めて少ない男性から FFP-LR-240 は作成されているため.

・止血法として子宮圧迫縫合,IVR の有用性:産科危機的出血に対して子宮全摘出 術以外にも子宮圧迫縫合,IVR による塞栓・バルーンが有用であった報告が増加 したため.

・止血困難時にクリオプレシピテート,フィブリノゲン濃縮製剤投与を推奨:これらの薬剤の産科出血への保険適用はないが,緊急避難として死亡を回避目的に実地臨床で使用されているため.

・緊急時輸血での FFP,血小板の適合血の選択の明示:前回では O 型出庫などの赤 血球輸血は掲載していたが,FFP あるいは血小板での AB 型使用は未掲載であった.
患者の血液型による使用順位を表にした(表1).