(1)産科危機的出血への対応指針の改訂経緯

 以前,わが国の妊産婦死亡原因の第 1 位は産科危機的出血であった.そこで日本産 科婦人科学会などの 5 団体が「産科危機的出血」の概念,病態,対応について 2010 年 4 月に「産科危機的出血への対応ガイドライン」をまとめ公表した.この特徴を以下に示す.

・管理指標として従来の外出血量ではなくショックインデックス(SI:shock index)と臨床症状を提唱
・緊急輸血を躊躇しない
・緊急時にはクロスマッチ不要赤血球輸血の推奨
・輸血では早期の FFP(新鮮凍結血漿)投与の推奨
・大量赤血球輸血による高 K 血症と FFP 大量投与による肺水腫などの重篤な合併症を警鐘
・自己血貯血の有用性と方法を提示
・多職種の連携のために緊急コードを提唱
・自施設の対応マニュアル作成とシミュレーション実施の必要性

このガイドラインは「産婦人科診療ガイドライン産科編」にも掲載され,産科臨床 に広く浸透した.その結果,わが国の妊産婦死亡の原因としての産科危機的出血は激 減した.しかし,その後新しい産科危機的出血への治療法,薬剤,輸血療法などが登 場したため,時代を反映したガイドラインの改訂を作成,公表した.作成当時とは異 なり「ガイドライン」という用語は一定の要件が必要となったため,「対応指針」と いう用語になった.