(5)リスク低減のための対応と婦人科腫瘍のサーベイランス

・ 臨床医は遺伝性腫瘍の保因者や未発症血縁者に対して,発症前に予防的な対応を行うことで関連腫瘍の発症を軽減するリスク低減手術や,関連腫瘍の早期発見・早期治療を目的としたサーベイランスについて情報提供を行っていく必要がある(図21).
・ 全米を代表するがんセンターで結成されたガイドライン策定組織であるNCCN(national comprehensive cancer network)が提唱している,産婦人科に関連する遺伝性腫瘍におけるリスク低減手術と婦人科腫瘍のサーベイランス法について表30示す7, 10).ただし,これらの遺伝性腫瘍においては,エビデンスに基づく強く推奨できるだけの婦人科腫瘍サーベイランス法は現時点では存在せず,腫瘍発生時に生じ得る症状についての患者教育やリスク低減手術の重要性が強調されている.
・ 本邦においてはこれまで,リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO:risk reducing salpingooophorectomy)は特定の施設において自費診療で行われていた.しかし,2020 年4月の診療報酬改定で,RRSO は一定の基準を満たした施設において保険診療の範疇で実施することが認められた.BRCA 遺伝子バリアントを有する女性を対象としたメタアナリシス解析では,RRSO 後に卵巣癌と卵管癌のリスクが79.0%減少したとする報告がある一方で11),RRSO 施行後も腹膜癌が4.3%の頻度で発生するとの報告もあり12),RRSO 術後も定期的な婦人科腫瘍サーベイランスが望まれる.
・「 遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)診療の手引き( 2017 年度版)」では,BRCA 遺伝子バリアントの保因者に対して,卵巣癌リスク低減のための低用量経口避妊薬服用が推奨されているが,乳癌リスクの軽度上昇も報告されており,慎重に投与する必要があるとされている13).