(6)現状での問題点

・ 遺伝カウンセリングのニーズが増加しているのに対して,専門職である臨床遺伝専門医はマンパワー不足であることから,患者や血縁保因者への遺伝性腫瘍に関する基本的な情報提供は産婦人科医で行うことが求められている.その上で,産婦人科医は各診療科へのサーベイランスの橋渡しを行う存在になっていく必要がある.
・ 今後,RRSO を実施する症例数は増加することが見込まれる.しかし,RRSO 施行後も産婦人科医はBRCA 遺伝子バリアント保因者に対して,腹膜癌の発症に対するサーベイランス,閉経前に卵巣を摘出したことによる早期外科的閉経を原因とする更年期症状への対応など総合的な診療を行っていく必要がある.さらに,悪性腫瘍だけでなく早期閉経に伴う心血管イベントなどの非腫瘍性疾患ついても未だ不明な部分が多いことから,今後は更なる症例の蓄積と検討が望まれる.
・ 未発症者へのリスク低減手術やサーベイランスに関して,日本の保険診療は発展段階であり,内容によっては自費診療となる部分も多く存在する.今後,遺伝性腫瘍にかかわる保険診療制度の整備が望まれる.

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