(4)AYA 世代における遺伝カウンセリングの特徴

・ 思春期を含めたAYA 世代は,進学・就職・結婚・妊娠といった人生において重要な出来事を控えており,AYA 世代に対するカウンセリングはより慎重に行わなくてはならない.BRCA 遺伝子バリアントを有する 1,081 人の女性を対象とした海外の調査では,未婚女性の21.5%が結婚に,41.0%が挙児に関する決断に影響を受けたという報告もある8).逆に,遺伝子バリアントを有することを早い段階で認識しておくことで,後述するリスク低減手術を将来的に受けることを見据えて挙児年齢を考慮するなど,人生設計に役立てることもできる.
・ 日本医学会が作成している「医療における遺伝学的検査・診療に関するガイドライン」では,未成年の未発症血縁者を対象とする遺伝学的検査についても指針を示している.その一部を抜粋すると,未成年期に発症する疾患で発症前診断が健康管理上大きな有用性があることが予測される場合は,「本人に代わって検査の実施を承諾することのできる立場にある者の代諾を得る必要があるが,その際は,当該被験者の最善の利益を十分に考慮すべきである.また,被験者の理解度に応じた説明を行い,本人の了承を得ることが望ましい.」としている.その一方で,成人以降の発症が予測される疾患の場合は,「原則として本人が成人し自律的に判断できるまで実施を延期すべきで,両親などの代諾で検査を実施すべきではない.」としている9).すなわち,当該の未成年者が関与する遺伝性腫瘍の自然史とその本人の年齢などを含めた総合的判断が求められる.
・ 未成年の段階で既に婦人科腫瘍以外の疾患を発症し遺伝性腫瘍と診断されている場合,あるいは婦人科腫瘍以外の疾患で発症した発端者の血縁者の場合,主に対応しているのは小児科を含めた産婦人科以外の関連する診療科である.産婦人科診察の必要性を理解し,それを受け入れられる AYA 世代からは,産婦人科が関連する腫瘍の診療については産婦人科医へ移行する“トランジット”も滞りなく行っていく必要がある.
・ 産婦人科医にはクライエントを悪性腫瘍から守るだけではなく,AYA 世代では妊孕性を温存することも求められる.すなわち,リスク低減手術実施の是非とそのタイミングについても個々に検討する必要がある.