(2)卵巣チョコレート囊胞への対応

事例1:30 歳の女性,2 産.
主訴:月経困難症.
内診にてダグラス窩に硬結あり,超音波検査にて7㎝の卵巣チョコレート囊胞を認めた.

1 )ここがポイント

・月経困難症に対する対応は29 頁(1)子宮内膜症による疼痛への対応の項参照.
・卵巣チョコレート囊胞に対しては
 ①年齢,囊胞の大きさ,画像所見から癌化のリスクを検討する(表8,9)
 ②癌化の危険性が高い場合,病理学的検討の必要性があり,手術が考慮される.
 ③癌化の可能性が低い場合,患者の自覚症状や挙児希望の有無などにより治療方針 を決定する.
 ④特に,癌化の可能性が低く,かつ挙時希望がある場合,妊娠中に感染や破裂などのトラブルを起こすこともあることを説明し,治療方針を決定する.

2 )治療の実際

・月経困難症の訴えがあり,年齢および卵巣チョコレート囊胞のサイズの評価では卵巣癌化のリスクはそれほど高くない事例.
・まずは痛みのコントロールを目指し,長期間投与が可能であるLEP 製剤やジエノゲストによる薬物療法を試みる.これにより,ある程度の囊胞のサイズ縮小も期待される.
・薬物療法が無効な場合,手術療法が考慮される.
*チョコレート囊胞に対する術式として,卵巣摘出,囊胞摘出,囊胞壁焼灼術が上げられるが,30 歳という年齢を考えると卵巣摘出は悪性化を疑う所見がなければ行われない.
・月経困難症に加え,直ちに挙児希望がある場合,本事例のようにある程度の大きさを認めるチョコレート囊胞の場合,薬物療法よりも手術を先行することも考慮され得る.
*妊娠中のチョコレート囊胞では,非妊娠時に比べて感染や破裂などのトラブルを 起こす可能性が高くなるので,妊娠前にチョコレート囊胞の存在が分かっている挙児希望事例に対しては,少なくとも妊娠中のチョコレート囊胞に関連するリスクは伝えるべきである.

3 )卵巣チョコレート囊胞の合併によるリスク

①癌化について(42 頁「3.発生機序」の項参照)

・卵巣癌における病理学的な検討で卵巣チョコレート囊胞の合併が高頻度で認められることから,チョコレート囊胞が卵巣癌の発生母地になっている可能性が注目されている.
・チョコレート囊胞から卵巣癌の発生率は約0 . 7%と推定され,50 歳以上では有意に頻度が上昇する(Kobayashi H, et al.Int J Gynecol Cancer 2007;17:37-43.).
・チョコレート囊胞に対して手術が行われた事例の3 . 41%に卵巣癌が合併し,特に 40 歳台では4 . 11%と高率に癌の合併を認めている(表8)(日本産科婦人科学会編: 子宮内膜症取り扱い規約第2 部治療編・診療編.第2 版,東京:金原出版,2010).
・囊胞径10 ㎝以上の事例で癌合併率が高くなる(表9)
・したがって,特に40 歳以上で囊胞径10㎝以上の事例では癌化に注意を要し,病理学的検討の必要性があり,手術が考慮される.

②感染,破裂について

 手術を行わない場合,囊胞の感染や破裂のリスクが上がる.特に子宮内膜細胞診の検体採取後にチョコレート囊胞に感染を起こすことも経験され,注意を要する.