(1)子宮内膜症による疼痛への対応

*治療各論では,子宮内膜症の事例を挙げて,
・ここがポイント
 各事例で問題になっている子宮内膜症によるトラブルに対して,一般的にどのような点に注意をして対応するべきか重要ポイントを記載.
・治療の実際
 上記の記載を踏まえて,実際に事例のような患者が来院した際の対応のポイントを記載.
・事例によっては,上記項目のない章や,より詳細な解説を載せている章もある.

 

事例:30 歳の女性,2 妊2 産.
主訴:月経困難症(腹痛・排便時肛門痛).
 超音波検査所見で卵巣チョコレート囊胞は認めないが,内診所見でダグラス窩硬結を認めている.挙児希望はない.

1 )ここがポイント

・月経痛などの疼痛を主訴とした場合には内診や画像診断による病状の把握.
特に,この事例は直腸子宮内膜症やダグラス窩深部子宮内膜症を疑う病状がある.
診断には,経腟超音波検査,MRI, 注腸造影検査,大腸ファイバースコープなどが有用である.
・子宮内膜症性疼痛に対する治療アルゴリズムを示す(図27).年齢,挙児希望の有無,既往治療の内容を把握して,無治療での経過観察,NSAIDs や漢方薬による対症療法,LEP 製剤,ジエノゲストやGnRH アゴニストなどの内分泌療法,あるいは手術療法の中から,最適の治療法を選択し,副作用や経済的負担も考慮した上で,治療の個別化を図る.

2 )治療の実際

・軽症では,まずNSAIDs が第一選択として処方されることが多い.あらかじめ,月経直前から鎮痛薬を内服しておくと疼痛抑制効果が強い.
・疼痛緩和が十分でなく,挙児希望がない場合には,まずLEP 製剤を勧める.最近では,最長120 日間の連続投与可能なLEP 製剤が発売され,月経回数の減少と疼痛改善が期待できる.こうしたLEP 製剤では,従来のLEP 製剤でみられる休薬期間の頭痛などの副作用が軽減される.
・なおもコントロール不良の疼痛が持続する場合には,ジエノゲストやGnRH アゴニストの投与を考慮する.
・LNG-IUS は,挙児希望のない事例の長期管理に有用である.5 年間継続使用できることから,長期的にみれば他の薬剤よりも安価である.月経痛と過多月経には有効であるが,卵巣チョコレート囊胞の縮小を期待することは難しい.
・単剤で効果が不十分な場合には,GnRH アゴニストを先行し,無月経としたのちにジエノゲストやLNG-IUS を用いる方法や,GnRH アゴニストとジエノゲストを交互に用いる方法も有用である.
・薬物療法で制御困難な有症状の患者には,手術療法を選択する.専門病院での開腔または腹腔鏡手術による癒着剝離や深部病変の切除を考慮する.直腸子宮内膜症で腸管切除を要する場合には,縫合不全などの重篤な合併症が懸念されることから消化器外科医との合同手術を行う.