Q4.大出血で止血が困難な時の対応は?(図24)

ポイント① 双手圧迫法・子宮収縮薬投与

  • 帝王切開時に子宮収縮不全に伴う子宮出血を認めた場合,まずは双手圧迫法や子宮収縮薬投与を行う.

ポイント② 縫合による止血

  • 双手圧迫法や子宮収縮薬投与で出血のコントロールができない場合には,剝離面を内腔側から合成吸収糸で単縫合やZ 縫合して可及的に止血する.その際は,子宮筋全層を貫通させ,漿膜面へ出すと縫合しやすい.

ポイント③ 子宮内バルーンタンポナーデ法

  • さらに出血が持続する場合は,子宮内バルーンタンポナーデ法を実施し,バルーンを針で破裂させないように注意して子宮切開創を縫合し,子宮収縮薬を十分に投与して,術後24~48 時間後に経腟的に抜去する.

ポイント④ compression sutures

  • それでも止血できない際は,以下のようなcompression sutures を行う.
  • 子宮体部圧迫縫合法は,1997 年にB-Lynch1)が,主に弛緩出血に対し子宮体部前後壁を寄せ合わせることによって止血する方法を報告したのを初めとし,現在ではそれを原法とした様々な変法が報告されている.B-Lynch 法では,カットグッド糸1本を用い,子宮切開創から子宮底部までを圧迫縫合する.その後,2002 年にHayman2)は,子宮下節横方向の圧迫縫合および子宮体部縦方向の圧迫縫合法を左右2カ所におくという,さらに簡易的な方法として報告した(図25).また,2009年にはMatsubara ら3)が,子宮内反による大量出血,子宮内反再発予防およびB-Lynch やHayman 法での圧迫縫合糸の滑落予防として,子宮体部に垂直方向および水平方向の圧迫縫合結紮するMY 法を報告している(図26).

  • 筆者らが施行しているB-Lynch 変法(図27)は,膀胱上縁を確認し子宮切開創のやや下部より子宮を貫いて針を通す.この時のポイントは,術者が子宮下部を左手で把持し圧迫し押しつぶした状態で運針することである.子宮筋が厚い場合には,前壁から子宮内腔に針を出し,次いで後壁へと運針することも可能である.その後,後壁体部→底部→前壁体部と巡らせ,同様の操作を対側に行い,助手に子宮を強く圧迫させた状態で,この縫合糸を子宮底部できつく結紮する.子宮変形や内膜癒着を防止する目的および簡便さのため,1号ラピッドバイクリル針を用いて行うとよい.

  • double vertical compression sutures(図29)
    Hwu ら4)とHyman ら2)のvertical compression suture(図28)を組み合わせた方法5)で,子宮圧迫と側方からの流入血流量を減らすという2つの作用により,胎盤剝離面の出血と弛緩出血の両方に対し有効である.手技が比較的容易で,垂直方向に圧迫縫合するため術後の悪露排出障害も起こりにくく,子宮内感染や子宮内腔の癒着も生じにくい.

ポイント⑤ 動脈結紮術

  • compression suture による圧迫止血で出血コントロール困難な場合は,子宮への流入血流量を減少させる目的に動脈結紮術を併用する.
  • 内腸骨動脈や子宮動脈の結紮術は,以前より産褥出血の止血法として施行されてきたが,弛緩出血において有効である一方,前置胎盤や癒着胎盤などの外腸骨由来の出血が合併している場合には不成功の報告も多いため,筆者らは1994 年にAbdRabbo SA6)が報告したstepwise uterine devascularization の変法による止血術を行っている.この方式では,原法と比べ卵巣機能温存を目的とし卵巣動静脈ではなく卵巣固有靱帯で結紮を行うことや,子宮動脈本幹の結紮などの点が原法と異なる.
  • stepwise uterine devascularization 変法(図30)では,必要に応じて子宮円索を切断・結紮しながら子宮傍結合織を十分に展開しておく.
    Step Ⅰ:子宮下節横切開のやや下方で,筋層ごと子宮動脈上行枝を結紮する.
    Step Ⅱ: 卵巣機能温存を目的に卵巣固有靱帯で結紮する.ここでは,下方に尿管が並走しているため注意して行う.
    Step Ⅲ: 再度尿管を確認し,子宮動脈本幹を結紮するこの際には,側副血行路を考慮し,できるだけ子宮側(尿管交差部)で結紮する.
    これらの止血技術の導入により,前置胎盤症例の出血に対しての子宮摘出はほぼ回避可能である.

ポイント⑥ 前述処置を行っても止血不能な場合

  • 帝王切開術後の出血に対し,前述処置を行っても止血不能な場合は躊躇なく動脈塞栓術を行う.
  • 産科出血に対するtranscatheter arterial embolization(TAE)の止血効果は,89~97%と報告されており7),現在では腟壁・後腹膜血腫や癒着胎盤・遺残胎盤・癒着胎盤などの外科的止血操作が困難な症例にも用いられている.
  • 塞栓物質には,一時固形塞栓物質としてゼラチンスポンジ,永久固形塞栓物質として金属コイル,永久液体塞栓物質としてN-butyl-2-cyanoacrylate(NBCA)などが選択される.
  • 副作用としては発熱が最も多く,そのほか,子宮内膜壊死,癒着,子宮筋壊死,卵巣機能不全,膀胱壊死,殿筋壊死,骨盤内膿瘍などの合併症が報告され,その頻度は6~7.8%と言われている8,9).また,子宮内膜発育不全や子宮腔内癒着によって,無月経,稀発月経,過少月経なども報告されている.
  • TAE 後の妊娠は,まだまだ症例蓄積が少なく,胎盤異常や子宮破裂などによる産科出血のリスクが高いとの報告10,11)もあるため,周産期管理は厳重に行う必要がある.
    TAE でも止血困難な場合は,最終手段として子宮摘出を選択する.

 

文献

1) B-Lynch C, et al. The B-Lynch surgical technique for the control of massive postpartum haemorrhage: an
alternative to hysterectomy? Five cases reported. Br J Obstet Gynecol. 104:372-375,1997
2) Hayman RG, Arulkumaran S, Steer PJ. Uterine compression sutures: surgical management of postpartum
hemorrhage. Obstet Gynecol. 99:502-506,2002
3) Matsubara S, Yano H, Tanechi A, Suzuki M. Uterine compression suture against impending recurrence of
uterine inversion immediately after laparotomy-repositioning. J Obstet Gynaecol Res. 35:819-823,2009
4) Hwu Y-M, et al. Parallel vertical compression sutures. BJOG. 112:1420-1423,2005
5) Makino S,Tanaka T, Yorifuji T, Koshiishi T, Sugimura M, Takeda S. Double vertical compression sutures:
A novel conservative approach to managing postpartum hemorrhage due to placenta previa and atonic
bleeding. Aust N Z J Obstet Gynecol. 52(3):290-292,2012
6) AbdRabbo SA. Stepwise uterine devascularization:A novel technique for management of uncontrollable
postpartum hemorrhage with preservation of the uterus. Am J Obstet Gynecol. 171:694-700,1994
7) 産科危機的出血に対するIVR 施行医のためのガイドライン2017.日本IVR 学会.2017
8) Badawy SZ, et al. Uterine artery embolization: the role in obstetrics and gynecology. Clin Imageng 25:
288-295,2001
9) Vegas G, et al. Selective pelvic arterial embolization in the management of obstetric hemorrhage. Eur J
Obstet Gynecol Reprod Biol 127: 68-72, 2006
10) Poggi SH, et al. Outcome of pregnancies after pelvic artery embolization for postpartum hemorrhage:
retrospective cohort study. Am J Obstet Gynecol. 213:576.e1-5,2015
11) Takeda J, et al. Spontaneous uterine rupture at 32 weeks of gestation after previous uterine artery
embolization. J Obstet Gynecol Res. 40:243-246,2014