Q5.膀胱損傷した際の対応は?

ポイント

  • 通常の帝王切開時の膀胱損傷は泌尿器科の常駐しない1 次施設でも修復は可能である場合が多いが,術後近隣の泌尿器科と連携して管理をすることを検討する.
  • 穿通胎盤の際の膀胱損傷の対応は困難である.
  • 帝王切開時の尿路損傷は,97%が膀胱損傷,3%が尿管損傷であると報告されている1).
  • 初回帝王切開における膀胱損傷の頻度は0.2%で,反復帝王切開の場合には0.6%に増加する2).

(1)通常の帝王切開での膀胱損傷:1次施設などでの対応

  • 通常の帝王切開による膀胱損傷は,膀胱の膀胱頂部~後壁にかけてであり,尿管口を修復する必要のない場合が多い.
  • ただし,反復帝王切開例では膀胱壁を何度か剝離したため菲薄となり,子宮切開の際に菲薄化した膀胱壁も二重に何度も切離し,膀胱壁が短冊状に切離されてしまうこともある.この場合には膀胱部分切除が必要である.
  • 膀胱の修復は,子宮の縫合後,3-0,2-0 吸収糸で膀胱壁を二層縫合する(例えば3-0 吸収糸による粘膜連続縫合と2-0 吸収糸による筋層連続の二層縫合など).
  • 修復後,膀胱内に生理食塩水100~150mL 注入してリークテストを行い,膀胱子宮窩にドレーンを留置する.尿道カテーテルは数日留置し,大きな膀胱損傷の場合には数日後に膀胱造影を行い,リークのないことを確認して尿道カテーテルを抜去する.
  • 産婦人科医のみの対応でも可能ではあるが,必要に応じて近隣泌尿器科医へ術後の管理内容を相談することを検討する.
  • ただし,損傷場所によっては修復することにより尿管閉塞などを起こす場合もあるため,各施設で膀胱損傷の際の対応を事前に検討しておくことが重要と思われる

(2)穿通胎盤・癒着胎盤での膀胱損傷:泌尿器科医が常駐する大病院での対応

  • 問題になる膀胱損傷は穿通胎盤合併例で,このようなケースは通常大学病院や大きな総合病院での帝王切開例である.
  • 穿通胎盤ではエコーやMRI を施行し,泌尿器科医に相談して膀胱鏡検査は必須になる.膀胱鏡では膀胱粘膜下に胎盤側の血管・静脈叢が透けて見え,膀胱粘膜下に血管の著明な怒張を確認できる.
  • 帝王切開時に子宮摘出および膀胱部分切除が必要なことが多い.
  • 選択的帝王切開を計画することになるが,胎盤早期剝離などにより緊急帝王切開になることもあり,産婦人科医のみならず,泌尿器科医も緊急の対応に備える必要がある.
  • 穿通胎盤による緊急帝王切開,子宮摘出,膀胱部分切除,かつ膀胱腟瘻に至った症例提示をする3).

1 )症例

  • 第1子,2子が帝王切開術で分娩となった41 歳の女性で,妊娠28 週頃より不正出血を繰り返したため,第31 週でMRI を施行し穿通胎盤を疑う所見を認めた.泌尿器科にて膀胱鏡を施行し,膀胱三角部後方から後壁にかけて妊娠子宮による圧排と膀胱壁粘膜下の血管の著明な怒張を認め,帝王切開時には膀胱部分切除の可能性があると判断した.
  • 妊娠34 週に陣痛発来し,緊急帝王切開となった.開腹時,子宮前壁より胎盤が透視される状態で,その周囲の血管も著明に怒張していたため,胎盤剝離は困難と考えて児娩出後,子宮摘出も施行する方針となった.術中出血量が8,000mL を超えていたため,産婦人科医が止血目的で両側内腸骨動脈を結紮して子宮摘出を施行した.子宮は胎盤を介して膀胱と強固に癒着していたため,子宮摘出の際に膀胱部分切除も行った.その後,泌尿器科に膀胱修復の依頼があった.膀胱は術前の膀胱鏡で観察した圧排部分がそっくり切離された状態で,膀胱頂部~後壁にかけて約1/3の膀胱が欠損していた.

2 )膀胱損傷の修復

  • 膀胱の血流改善目的で内腸骨動脈結紮の解除を提案したが,婦人科医の判断で,結紮のままとなった.
  • 膀胱壁は多方向から修復・縫合をした.2-0,3-0 吸収糸にて二層縫合した.膀胱容量は約1/2 程度になったが,リークテストでは漏れはなかった.術中出血量は尿・羊水込みで9,370mL,6,050g の輸血を施行した.術後は母子ともに病態は安定して経過した.

3 )膀胱腟瘻

  • 膀胱カテーテルは挿入中であったが,第9病日より腟からの尿失禁を認めた.
  • 第12 病日に膀胱鏡を施行し,縫合部と少し離れた部位の膀胱後壁に約1㎝弱の壊死様の欠損を認め,その周囲粘膜は蒼白・浮腫状で血流障害の所見であった.膀胱造影で腟への造影剤のリークを確認した.術後7カ月目にも膀胱腟瘻を認めたままで,膀胱容量は50~80mL であった.

4 )膀胱腟瘻閉鎖術

  • 膀胱腟瘻閉鎖術は当初経腟的アプローチを選択したが,経腟分娩をしていないため腟口が狭く修復は困難を極め,再度膀胱腟瘻が再発した.さらに4カ月後に,経腹的に膀胱腟瘻閉鎖術を行った.縫合面の間に大網を充填し,縫合面が接しないようにし,かつ膀胱の血流改善を図った.
  • 術後2週間目に膀胱造影を行い,リークは認めなかったため,バルーンカテーテルを抜去して退院となった.退院後も瘻孔の再発はなく,順調に経過した.

5 )まとめ

  • 3回目の帝王切開の際に穿通胎盤を認めた症例で,子宮摘出および膀胱部分切除を行った.大量出血のために両側内腸骨動脈を結紮し,結果的に膀胱の血流障害が生じて膀胱腟瘻も併発した.膀胱腟瘻修復は帝王切開より約1年経過していた.

 

文献

1) Oliphant SS, et al. Maternal lower urinary tract injury at the time of Cesarean delivery. Int Urogynecol J.
25:1709-1714,2014
2)Elisenkop SM, et al. Urinary tract injury during cesarean section. Obstet Gynecol. 60:591-596,1982
3) 坂本善郎.泌尿器科領域におけるトラブルシューティング.穿通胎盤合併の出産時に生じた膀胱損傷の修復
および膀胱腟瘻閉鎖術.泌尿器外科.23(1):55-57,2010