4.事故発生時の医師賠償責任保険会社・医師会などとの連絡・連携

1.事故発生時の速やかな連絡と連携

 医師賠償責任保険(医賠責保険)に加入している場合に,医療事故が発生してから保険金が支払われるまでの流れが18 に整理されている.

 特に留意すべき点は以下のとおりである.

①できるだけ速やかに保険会社または医師会などに連絡する

 医療事故紛争は,できるだけ早期に交渉方針を確定し,患者やその家族に適切・丁寧に対応していくことが長期化・訴訟化を回避する上で重要である.具体的な金銭要求がなくとも損害賠償請求のおそれを認識した時点で保険会社に連絡し,対象となる保険の有無,補償範囲,交渉方針のすり合わせを実施する必要がある.

 連絡先は加入の際に発行された加入証などを確認する.また,医師会(日本医師会, 都道府県医師会)で加入の場合は,まず都道府県医師会の窓口へ連絡する.

②交渉を進めるにあたっては保険会社と密に連携する

 賠償すべき内容は,後述のとおり治療費や交通費などの実費に加え,慰謝料や後遺障害・死亡逸失利益など目に見えない補償もある(付録用語解説参照).保険会社は過去の事例などから適切な賠償額の算出や責任有無についての参考意見の取付,弁護士の紹介や連携などを行いながら,解決に向けた支援を行う.また,医師会や加入する団体の保険によっては,審査会や検討会といった名称で,責任有無や賠償額などの検討を行う機関が設けられている場合があるため,その手続に沿って進める.

 いずれの場合にも,保険会社や医師会などへの事前連絡なしに賠償金や弁護士費用などを支払ってしまうと保険では支払われないことがあるので十分注意する.

 

2 .医師賠償責任保険の補償内容

 医賠責保険は,医療業務を行う中で患者に身体障害が生じた場合に負う法律(民事)上の賠償責任を補償する.医賠責保険により支払われる保険金は,以下の2種類に分類される.

①患者に対して支払い責任を負う賠償金(賠償保険金)

 法律上責任を負うことになった損害賠償金の額が支払われる.一定の免責金額(自己負担額)が設定されている場合がある.

②弁護士費用などの争訟費用(争訟費用保険金)

 訴訟,訴訟外を問わず解決に要した弁護士費用などの争訟費用が支払われる.

 結果的に医師や医療機関に責任がなく,損害賠償金の支払いがない場合でも訴えられた内容が医賠責保険の対象となる事故であれば支払われる.

 

3 .賠償保険金で支払われる損害賠償額の算定

 身体障害に対して法律上賠償責任を負う主な損害の種類と内容を12 に示す.これらを基に全体の損害賠償額(上記2)①における賠償保険金)が算定される.

注)本項の記載内容は東京海上日動火災保険株式会社の約款を基にして作成.