(3)生産人口の増加対策

1)労働力の不足を女性や高齢者で補う

労働力人口とは,満15歳以上で労働する意思と能力をもった人の数を指す.したがって,就業者と失業者の総数で表す.この労働力人口は2006年以降,概ね横ばいであり,2012年以降は人口が減少しているにもかかわらず,2017年に至るまでは,変化は少ない.これは,全体的な人口減少を,女性や高齢者の社会進出が補っている状態であると考えられる(図3).
しかし,2030年になると,労働力人口は3,887万人(62.9%)と推定され,2017年以降,年々減少すると考えられる(図3).

2)外国人労働者の受け入れ政策

 国内で新たな労働力として女性と高齢者を期待したものの,それには限界があることは既に述べたとおりである.そこで,残された唯一の方策は外国人労働力の受け入れであった.既に,在留する外国人の数は,2019年の段階で,過去最多の264万人に達したが(図4),将来の生産年齢人口の減少を考慮すれば,外国人の受け入れの拡大は,日本の将来にとって必要不可欠の政策となった.今までの外国人労働者数は年々増加しており,2018年の総数は,146万人に達している(図5).一方,在留外国人の総数も年々増加している.国籍は多い順から,中国,韓国,ベトナム,フィリピン,ネパールとアジア諸国が多いが,親が日本人であったブラジル人も増加している.中でもベトナム人の増加が目立つ.国内の地域では,多い順に,東京都55万人,愛知県25万人,大阪府23万人,神奈川県21万人,埼玉県17万人となっているが,地方都市では同じ国から来た者の街ができるほどの外国人人口集中も起きている.
 外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法が2019年4月1日施行された.その改正法案によると,新たな在留資格「特定技能1号」「特定技能2号」が創設された.特定技能1号の取得には「相当程度の知識または経験を必要とする技能」や,「ある程度日常会話ができ,生活に支障がない程度を基本とし,業務上必要な日本語能力」が求められる.在留期間は通常5年が上限で,家庭帯同は原則できない.
 しかし,「第2号技能実習」の修了者は必要な技能や日本語能力水準を満たしているとみなして試験などを免除してある.特定技能2号については,「熟練した技能」を求めている.特定技能1号とは異なり,在留期間の更新に上限は付されておらず,家族帯同も可能だ.日本語能力に関する定めもない.向こう5年間の受け入れ見込み数は介護,外食業,建設など14分野の合計で34万5,150人(5年間の最大値)に設定された.


3)定住している外国人の生活者としての総合的な対応策の必要性

 政府は入管法の改正に加えて在留外国人一般に対する処置として,2018年12月「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を発表した.
 これは,日本としての受け入れ準備態勢を整えるためと思われるが,多くの一般的な日本人にとっては,在留外国人に対する関心度は大変低いのが現実である.
 既に今日までに,260万人を超える外国人が住んでいたにもかかわらず,彼らや,その子どもたちに対する多くの日本人の想いは「外人」と呼ぶことで,日本人と同化することを望んでいないように思われる.それだけに,日本語教育や子どもたちへの教育も含めて政策の不在が続いてきた.現在のGDPを維持するには,毎年25万人ずつ外国人を増やさねばならない計算があり,現在の在留外国人と合わせれば2060年には,1,000万人を超えることになる.
 このように,これからの日本の将来は,欧州や米国のように移民で成り立つ国家の1つになることは避けられないと思われる.したがって,外国人が日本人としての本来のあり方を身に付けるためには,外国人に対する徹底した日本語教育とその子どもたちへの日本文化に関する学校教育と地域や仕事場,企業の心からの受け入れ態勢こそが不可欠であると思われる.それでも,在留外国人の2世,3世にして,はじめて言葉は日本人と変わらくなり,その世代から日常の振る舞いは本来の日本人らしくなるように,一朝一夕には期待どおりにはいかないことは留意しておかねばならない.
 性や生殖そして,妊娠・分娩・産後のケアなどに関する慣習や考え方,また文化の違いは各国によって異なるだけに,産婦人科医療や産科医療においては,今後,各国の特徴を踏まえた診療と対応が求められる.
 在留外国人が年々増える状況であることを受け入れて,本特集号は現場の医師が,すぐに対応でき,それぞれの問題の解決に役立つように作成されているので,有効利用を期待したい.