2.災害医療体制との連携

  • 災害医療体制と周産期医療体制との連携においては,災害時だけでなく平時の小 児・周産期災害リエゾンの活動が重要である.災害時に期待される役割,活動については,本研修ノートの別項に紹介されている.災害時に有効に機能することを目指し,平時の災害訓練でリエゾン活動をシミュレーションすることにより,災害医療体制の概要,災害対策本部における保健医療調整本部の役割,他部門との役割分担について理解し,災害時の周産期医療体制維持の課題を抽出しておくことが重要である.
  • 沖縄県においては,2018 年より県大規模災害訓練にあたって,保健医療調整本部に小児・周産期リエゾンが参加している.リエゾンが参画するようになり,災害訓練に先立って実施される医療機関向けの調査に,分娩取り扱い施設におけるインフラ整備,物資備蓄,非常時の連絡手段の整備状況などを含めた.
  • 災害医療コーディネーターと訓練の準備を行う中で,災害時周産期医療体制や行政手続き上の課題が明らかになった.抽出された問題点を学会や医会で共有し,対策を講じておくことが今後の課題である.
  • これまでの活動や災害医療分野のキーパーソンとの交流を経て,第 7 次沖縄県医療計画においては,医療体制協議会災害医療部会に周産期関係者が参画することに なったことは有意義な第一歩である.
  • 2020 年からのコロナ禍は,ある意味インフラが温存された災害とも言える.沖縄県においても県対策本部の医療調整部門にリエゾンが参画し,周産期医療側の学会 / 医会対策チームと連携して活動を継続している.流行状況や感染対策の共有だけでなく,周産期施設への BCP 策定,分娩受け入れ制限施設が発生した場合の施設連携想定も行っており,今後災害時にも応用できると考えられる.
  • 地域で母子保健を担う行政組織とは,平時からハイリスク妊産婦の支援などで密にかかわっており,その関係性は災害時の役割分担や連携のあり方の検討にも重要な役割を果たすものと思われる.
  • 行政組織との連携上の課題は情報共有の手段の確保にある.居住地と,健診を受けているかかりつけ医とは必ずしも同じ行政区域であるとは限らず,災害時に妊産褥婦および新生児の所在について,行政のもつ情報と医療機関がもつ情報を共有できる仕組み,地域において問題があると判断された場合に情報を送る先の設定などを今後の課題として取り組む必要がある.

 

文献

  1. 兵庫県産科婦人科学会,兵庫県医師会:母よ,あなたは強かった!!阪神・淡路大震災のストレスが妊産  婦および胎児に及ぼした影響に関する疫学的調査.
  2. 東日本大震災被災地の小児保健に関する調査研究班.産科領域の災害時役割分担,情報共有のあり方検  討 Working Group:お産を守り,輝く未来へ     災害に備えた平時からの母子保健・産科医療の連携状況に関する調査報告.