1.病院前周産期救急にかかわる人材との連携強化

  • 日常的に周産期医療にかかわるわけではないが,緊急時対応にかかわる職種としてまず挙げられるのが,救急救命士や救命救急センターの医師,看護師である.
  • 「救急現場における周産期救急~わが国の実態調査と病院前周産期救急のあり方に関する検討~(救急振興財団2017年3月)」によると,搬送症例全体に占める産科・周産期傷病者は0.6%,新生児は0.2%,施設外分娩取り扱いは搬送全体の0.02%と報告されている(2015年実績).一般的に救急搬送において周産期事例を取り扱 うことは稀であり,救急救命士へのアンケートでは,分娩対応や新生児蘇生,妊産 婦救命について学ぶ必要性を(強くもしくはどちらかといえば)感じるという回答   が 100%であったと報告されている.救命救急センターの医師,看護師においても, その施設が周産期センターを併設しているかにより産科救急症例にかかわる頻度は 異なり,また周産期センターを併設していても周産期搬送システムを必ずしも把握していない場合があることが指摘されている.一方周産期医療従事者側も,メディ カルコントロールなどの救急搬送システムや,救急救命士の業務内容を必ずしも理解しているとは言い難い.
  • 当院(沖縄県立中部病院)では,2014年より病院前周産期救急に関するシミュレーションコースや勉強会を開催し,プライマリケア医,救急医,救命救急センター看護師,救急救命士など多様な職種の参加を得てきた.日常的に周産期に接することのない職種の人々が,分娩や新生児蘇生といった緊急対応だけでなく,妊娠に伴う生理学的変化や,女性傷病者から妊娠している(可能性がある)という事実を聴取したり,妊娠時期を推定したり,妊娠合併症を抱えている可能性を評価できるようになるための知識やスキルを得るきっかけになることを目指してスタートしたが,周産期医療従事者にとっても,立場の違いによる異なる視点や,病院で搬送を受けるだけの立ち位置から一歩進んだ救急搬送システムの実際を知る貴重な機会となっていることを実感している.この活動から発展して,現在,県メディカルコントロール協議会に周産期救急・新生児蘇生に関する専門部会を設置することが決定し,各周産期センターからの参画を得て今後の更なる協働を目指しているところである.
  • 例えば,災害時に避難所にて35歳の女性の血圧を測定したところ,収縮期血圧が150㎜Hgであったとする.プライマリケア医や救急医,看護師,救急救命士にとってこの血圧は高いとは認識されてもすぐに医療機関への搬送を考慮するものではないだろう.しかし,もしこの女性が妊娠 28 週であったとしたらどうだろうか.周産期医療従事者であれば即,妊娠高血圧症候群や早産のリスクを頭に思い浮かべるであろう.このように,周産期医療従事者とそれ以外の職種との間で,メンタルモデルを共有できるようになることが,連携に重要な要素となる.
  • 病院前周産期救急に関する研修を実施することによって得た経験を地域の産婦人科医と共有し,より多くの周産期医療従事者に他領域の職種との連携の重要性を知っていただき,参画していただくことも必要であり,今後取り組むべき課題である.