(1)担当部門の設置

 入院患者における各診療科別外国人の比率,収入は産婦人科が第1位である(図11).なぜならば,在住・訪日を問わず日本に来る外国人は健康面で問題ない(と思っている)人がほとんどで,異国である日本において病気以外で病院を受診・入院する理由として,在留外国人女性の場合,妊娠・出産が最も多いからである.

(1)担当部門の設置

1)外国人患者に対する医療提供体制の構築の経緯~NTT東日本関東病院の取り組み~(図12)

 NTT東日本関東病院(以下本院)は品川区北端に位置し,港区の区境にある.外国人居住者は品川区では3.3%,隣接する港区では8.5%に達しており,外国人患者が多い地域である.2003年4月に病院内に「国際化推進ワーキング委員会」が発足し,「世界的視野に立った最高の医療の提供」を理念として,その活動が行われてきた.私たち日本人が外国で病気になった時の病院選びの基準と同様,外国人が日本の病院を選ぶ基準は,
①その病院の医療の質と安全が国際水準に見合う高い水準であること.
②その病院の外国人に対応する部門がしっかりしていること.
であろう.
 特に,①の病院の医療の質と安全が担保されていることは,自分の生命を委ねる上で日本人であろうと外国人であろうと最も重要である.
 日本医療機能評価機構は,医療の質を高めるための統括的な国際組織(ISQua: International Society for Quality in Healthcare)に加入しているものの,必ずしも外国人の認知度が高くなく,日本には国際基準を満たす病院がないという誤解が生じている可能性が危惧された.
 一方,広く国際的に受け入れられている病院機能評価として,米国の病院機能評価であるJoint Commissionの国際部門であるJoint Commission Internationa(JCI)があり,日本で2番目,東京で初めて2011年に本院はJCIの認証を受けた.
※JCI受審に当たっては,本邦で最初に認証を受けた亀田総合病院とともに米国Joint Commission の認証を受けている横須賀米海軍病院(USNH Yokosuka)から多くの助言を受けたが,JCI認証を契機に横須賀米海軍病院との合同研究会,医療スタッフの交換プログラムが開始され,現在も続いている.
 また,米国ではJCIの認証を受けた医療機関でなければ保険診療を受けることができないが,米軍の医療保険であるトライケア(Tricare)がJCI認証病院で使用できるようになった.このため横須賀米海軍病院からの紹介患者も増え,現在,日本の医療保険に加入していない非居住外国人患者の割合は,大使館関係者を超えて,過半数が米軍病院からの紹介で占めるようになっている.JCI認証病院は世界中で急速に普及しており,わが国で28施設,世界で1,085施設(2019年3月現在)におよび,中国には110施設ある.
 本院がJCIで国際基準の医療の質と安全の認証を受けた目的は,当院を利用する大多数の日本人患者のためでもあり,外国人を受け入れるためだけではなかった.また,JCIの審査は診療録,マニュアルなど母国語(日本語)での対応可能なものがほとんどである.すなわち,外国人患者に対する医療提供体制の構築にはJCI認証だけでは不十分で,院内表示や各種文書の多言語化のために別の組織体制を整備する必要に迫られた.
 もっとも,外国人患者の対応に苦慮しているのは全国の病院共通の問題である.さらに言えば公共施設共通の問題であり,ここは行政の出番である.これに該当するものが次に述べるJMIPである.

2)外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP)について

 在住外国人,外国人観光客増加に伴い,行政や公共機関において,多言語表記が急速に浸透している.当初は各施設でまちまちに行っていた多言語対応に対して,種々のガイドラインが制定され,業界ごとにほぼ統一された多言語対応が可能になってきている.
 医療機関に対しては,厚生労働省の支援事業として「外国人が安心・安全に国際的に高い評価を得ている日本の医療サービスを享受することができる体制を構築する」ことを目的とした外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP(ジェイミップ):Japan Medical Service Accreditation for International Patients)が日本医療教育財団により設置されている.
 JMIPは,外国人患者の1受け入れ対応,2患者サービス,3医療提供の運営,4組織体制の管理,5改善に向けた取り組みの5つの大項目を評価項目として設定し,それぞれに中項目,小項目の具体的なチェックリストを付けている.このチェックリストを満たしていくことにより,医療機関の外国人患者受入れ体制が構築できるように設計されている.また,JMIP事務局側が一連の外国人対応に必要な各種書類やマニュアルをある程度用意し,親切に事前相談にも乗ってくれるので,JCIや日本医療機能評価機構が厳しく医療の質と安全を審査するのに対して,JMIPは認証というよりも外国人患者受入れ体制構築の支援といった側面が強い.JMIP発足当初は,外国人患者の増加を危惧する医療機関が多くJMIPの認証病院は少なかったが,中国語やポルトガル語しか分からない外国人患者が急増し,その対応に苦慮している地方病院の方がJMIPの認証に積極的であった.最近は,2020年オリンピック・パラリンピックを控え,東京都も保健医療公社を含むすべての都立病院で外国人患者受入れのためにJMIP認証取得を目指しており,都内の病院がJMIP受審にかかわる費用を補助する制度も設けている.
 本院では,外国人が安心して受診できる医療機関であるためにはJCI認証だけでは不十分と考え,2015年3月に東京都で2カ所目のJMIP認証医療機関となり,2019年1月25日に更新審査による再認証を受けた.
 外国人患者の受け入れ体制を準備するためには,JMIP認証取得を目指さないにしても,JMIPの自己評価表やチェックリストを参考にし,さらにJMIP認証医療機関を訪問し情報提供を受けることを強くお奨めする.