(3)骨盤内感染症(PID)の総論

・ 骨盤内感染症(PID:pelvic inflammatory disease)は,小骨盤腔にある臓器,すなわち子宮,付属器,S 状結腸,直腸,ダグラス窩,膀胱子宮窩を含む小骨盤内の細菌感染症の総称である.婦人科領域では,付属器炎,卵管膿瘍,ダグラス窩膿瘍,骨盤腹膜炎が含まれる.
・ PID の診断基準を示す.

必須診断基準 ・下腹痛,下腹部圧痛
・子宮・付属器および周辺の圧痛
付加診断基準 ・38℃以上の発熱
・白血球増加
・CRP の上昇
特異的診断基準 ・経腟超音波検査,MRI 検査による膿瘍像
・ダグラス窩穿刺膿汁の吸引
・内視鏡,開腹により病巣を確認

・ 起因菌を表6 に示す.これらが単独もしくは混合感染している.

・ 近年は,性行為感染によるマイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium )が注目され,PID の約15%を占めるといわれる.
・ PID を発症した場合は,その後に不妊や異所性妊娠のリスクが上昇することから,速やかに適切な抗菌薬加療が必要である.
・ クラミジアトラコマティス,M. genitalium などが疑われる場合は,アジスロマイシン,ミノサイクリン,ニューキノロン系,クラリスロマイシンを併用する.クラミジアと混合感染しやすい淋菌感染症もカバーするためにセフトリアキソン(ロセフィン)1g 静注を併用することもよく行われる.