(3)治療

1 )心理教育と治療動機の発掘

・ 体重増加には恐怖を伴うので,患者は栄養療法を容易には受け入れない.やせの安心感より体重増加の利点が大きいと自覚できるような動機付けに尽きる.
・ 臨床検査や画像所見を提示して,病状と改善方法を丁寧に説明する.例えば,体脂肪が12.5%以下では,レプチンや女性ホルモンが低下して無月経になること,女性ホルモン補充療法で無月経が治癒したと誤解している場合は,現在の体重のままでは月経が自力で再来しないこと,女性ホルモンは骨密度,体型,情緒などに影響すること,最低でも標準体重の85%以上で月経が回復することなどである.
・ 本症をストレス疾患として概説し,本人も異常だと気づいている心理や行動があれば,神経性やせ症の症状であることを説明して,本人と病気の症状を分ける(疾患の外在化).
・「やせているとなぜか安心」というやせのメリットや体重増加の恐怖を肯定する.
・「 入院したくない」「クラブ活動に参加したい」など治療動機になり得る本人の意思や希望を尊重して,それが達成できる体重を目標にして,漸増する.

2 )栄養指導と知っておきたい基礎知識(表38

・ 栄養療法が優先されるのは救命や合併症の予防,精神療法の障害となる飢餓症候群の改善のためである.
・ 食行動異常は症状で,すぐに改善されない.基礎代謝量は減少しているが,食事摂取後の体熱産生は減らず,過活動のため 1 日のエネルギー消費量は健康女性と差がなく,必要エネルギーは59kcal/㎏との報告がある.1㎏の体重増加には7,000~8,000kcal が必要である.
・ むちゃ食いは低栄養の反動なので栄養状態が改善しない限り止められない.飢餓刺激を減らすために食事・間食の回数と時間を決める.過食に費やす時間や金額を記録して,漸減し,嘔吐の回数を決める指導をする.嘔吐後のメンテナンスを具体的に指導する.

3 )薬物療法

・ 保険収載薬はなく,薬物療法は胃腸症状や精神症状に対症的に行われる.

4 )心理療法

・ エビデンスのある精神療法の報告はない.飢餓症候群が障害になると考えられる.
・ 支持的(信頼関係を築き,よい点を支持して,本人の回復力を強化する)に対応し,ある程度の体重増加後に完璧主義,認知の偏り,未熟なコーピングスキル(ストレス対処能力)の改善に対し認知行動療法や対人関係療法を導入する.

5 )合併症の治療

・ 標準体重の85%以上の体重で,一般にその 6 カ月以降に月経は再来する.貧血や低栄養状態の悪化を防ぐために,低体重時には原則として月経誘発は行わない.ただし,標準体重の70%以上では子宮の萎縮を予防するために,必要に応じて数カ月に 1 回程度月経を誘発してもよい.
・ 骨粗鬆症は体重増加が最も有効な治療で,BMI:16.4 以下ではさらに悪化する.結合型エストロゲンはBMI:15 以下では骨密度の減少を阻止するが,15 以上では効果は見られず,骨密度の増加目的では使用しない.エルデカルシトールは初年度約5%の骨密度の増加が得られる.

6 )家族や学校などの協力

・ 家族は原因ではなく回復をサポートする資源だとみなされている.家庭が安心して療養できる場になること,学校・職場で当面の大きな心理ストレスがないことは早期回復の条件である(図25).