胎児心拍数陣痛図(CTG)の判読に過失が認められた常位胎盤早期剝離での死産事例 〈T 地裁 2018 年7月〉

1.事案の概要

 29歳の原告X1は,診療所で第1子を出産している.2013年,同医院で第2子妊娠管理されていた.妊娠31週3日に下腹部の張りと少量の性器出血があり,19時45分に切迫早産の診断で入院した.入院後のCTGで心拍数基線は110~150bpmで, 看護師は遅発一過性徐脈と判断し,体位変換を行っている.また,20時25分からリトドリン塩酸塩の点滴を施行した.被告医師Y は22時50分~23時15分までのCTGで遅発一過性徐脈を疑いつつも,基線が130bpm で一過性頻脈もあり正常と判断し,23時15分に分娩監視装置を外した.翌日4時に強い動悸を感じ,出血もやや増量していた.Yの診察で胎児心拍動はなく常位胎盤早期剝離(以下,早剝)と判断して母体搬送した.緊急帝王切開で7時6分に死亡児X3を娩出した.出血量は5,550mL(羊水含む)であった.この経過について慰謝料など損害賠償請求が行われた.請求額はX1が3,000万円,夫X2が1,000万円などであった.

 

2.紛争経過と裁判所の判断

 裁判所は,以下のように判示して,児が生存児として出生できなかったことに対し1,409万円(うち慰謝料1,200万円)の損害賠償を認めたが,父母固有の慰謝料を認める特段の事情はないとして,その他の請求を棄却した.

 入院後の管理:① 20時12~25分の基線は155bpmで基線細変動は減少し,高度遅発一過性徐脈が発生していた.20時25~56分の基線は正常脈であるが,基線細変動は減少し,一過性徐脈を認めた.しかし,経過観察としたことが過失とまでは言えない,② 22時50分~23時15分の基線は150bpm であり基線細変動減少,正常脈・高度遅発一過性徐脈を認めるもののYは正常と誤判断した.判読は難しいとしても異常心拍パターンの判断は可能であった.23時15分の時点で早剝を疑い,異常心拍の管理のために装置の持続装着,超音波検査,高次医療機関への転送措置を取るべきであった.上記義務を怠った過失があったといえる.また,23時15分の時点において胎児は生存しており,早剝を疑い適切な処置を行っていれば,胎児が生存したまま娩出された蓋然性が高いと認められる.よってYの過失と胎児死亡の間には因果関係が認められる.

 

3.臨床的問題点

問題点

 裁判では22時50分~23時15分のCTGを正常と誤判断したことが争点となった.「子宮収縮の度に反復する遅発一過性徐脈に対し,基線を低く判読して一過性頻脈を繰り返すパターンと読み誤る」ことに関しては日本医療機能評価機構などからも注意喚起がされており,今回の事例の誤判断もこれに当てはまる.また過失とは認定されていないが,20時台のCTGから基線細変動が減少していたことから,たとえ基線を低く判読していたとしても,基線細変動減少をもって異常心拍パターンと判断するべきであっただろう.

 またリトドリン塩酸塩が開始されたことも,収縮がマスクされ早剝の診断が遅れたことに関与していたと考えられる.発症早期の常位胎盤早期剝離と切迫早産は,子宮出血,子宮収縮など症状が類似している場合が多いことがよく知られている.そして, 切迫早産と誤認してリトドリン塩酸塩による子宮収縮抑制がさらに常位胎盤早期剝離の診断の遅れにつながった事例は過去に複数報告されており,重要なピットホールである

解決策

 CTGの判読の際には一過性徐脈のみならず基線細変動に着目することが重要である.そして,切迫早産の鑑別診断の際には,常に常位胎盤早期剝離を念頭に置く.そして胎児心拍パターンに異常がある場合には,仮に切迫早産の判断となり子宮収縮に対してリトドリン塩酸塩を使用した場合でも胎児心拍陣痛図の変化に細心の注意を 払って観察を継続する.

 

4.法的視点

 本件の裁判所は,CTGを詳細に検討し,23時15分の時点で早剝を疑い,異常心拍の管理のためのCTG持続装着,超音波検査,高次医療機関への転送の措置を取るべき義務を怠った過失を認めた.分娩経過に関与する事例では,本件のようにCTGを含めた臨床経過に関する事実などを証拠から認定し,医学文献,医師の意見書や鑑定意見などを基に過失や因果関係の有無を検討し判断される.

 正確かつ具体的な臨床経過の記録,検査などの記録は極めて重要な証拠であり,あるべき記録がない場合には,記録がないこと自体が医療機関側に不利な認定を受けるおそれもあるので,事故発生時にはより慎重に記録などを管理する必要がある

 なお,死亡事例あるいは死亡に匹敵する重大な障害を遺す事例では,本人だけでなく,その親族の慰謝料が認められることも多いが,本件では,親族固有の慰謝料請求は否定されている.