双胎第2子分娩,人工破膜後の臍帯脱出に過失ありとされた事例 〈N 地裁 2000 年7月〉

1.事案の概要

 Zは1991年5月,双胎および妊娠高血圧症候群のためY病院に紹介された.6月X日,Zは破水し陣痛開始となった.分娩は当直のB医師が担当した.午前11時頃, 第1子を経腟分娩により娩出し,その5分後にB医師が第2子の人工破膜を施行したところ,臍帯が脱出し,第2子であるAの胎位は横位となった.B医師は内回転術を試みたが成功せず,帝王切開により同日午後0時18分頃Aが娩出された.Aは重度の新生児仮死の状態で出生し,その後,呼吸不全により死亡するに至った.なお, オンコールであった産婦人科部長は,第1子の児頭が鉗子適位まで下降したことを確認した後,連絡が取れる状態にした上で帰宅した.

 

2.紛争経過と裁判所の判断

 Z とその夫は,①分娩時Aの胎位確認を怠り経腟分娩を選択した過失,②ダブルセットアップ体制をとらなかった過失,③ Aの臍帯脱出を生じさせた過失,④上級医が分娩の途中までしか立ち会わなかった過失などがあったとしてY病院に総額約4千万円の損害賠償請求をした.

 裁判所は,医師は第1子分娩後,内診によって第2子であるAの胎位が頭位であることを確認しているから,胎位の確認を怠った過失はないとした.一方で,医師には胎児を子宮底の方から圧迫して,児頭を固定させた上で,人工破膜をするという基本的操作を行わなかった過失があったとし,Aが重症新生児仮死状態で出産した原因は,人工破膜の処置の不備により臍帯脱出が生じたことにあるとして,本訴請求を認容した.

 

3.臨床的問題点

 人工破膜の要約は,児頭が固定していることであるが,双胎第2子の急速遂娩などのために,児頭未固定例で人工破膜を行う必要がある際には,児頭を下方に押し下げ, 固定させた上で施行する必要がある.

 産婦人科診療ガイドライン産科編2020で,双胎の経腟分娩では,第1子娩出後, 超音波で第2子の胎位を確認することが推奨されており,双胎経腟分娩にあたっては超音波装置を分娩室に用意しておく必要がある.また,双胎第2子が頭位でも,7%くらいが緊急帝切となるとの報告もある.

 

4.法的視点

 裁判所は,児頭を固定させた上で人工破膜をするという基本的操作を行わなかった過失と重症新生児仮死出生との間の因果関係があるとして,原告の請求を認めた.

 本件は,1991年の事例であるため,裁判では産婦人科診療ガイドライン産科編には言及されていないが,現在は,分娩に関する多くの裁判例では,原告または被告から同ガイドラインが医療水準を推定する重要な証拠の1つとして提出されているそのため,ガイドラインに沿わない方針をとった場合には,そのような方針とした合理的な理由が求められ,合理的な理由がない場合には,過失が認められる可能性が高くなる

 また,双胎の経腟分娩の訴訟では,原告からダブルセットアップ体制がとられていなかったとの主張が必ずなされることもあり,双胎分娩取り扱い上,この点にも留意しておく必要がある.