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新生児聴覚スクリーニングマニュアル
はじめに目次123456789101112
資料1
資料2資料3資料4資料5資料6資料7


4.精密聴覚検査について

(1) 精密診断機関について
 日本耳鼻咽喉科学会は現在190施設をスクリーニング後の精密診断機関として指定しているので、これらの施設に紹介する。また、聴覚障害児は、聴覚障害の原因検索、発達のフォローアップも必要であるので、小児科にも紹介する。

(2) 精密検査の方法
 乳幼児の聴覚障害の精密検査は、確定診断を目的として聴性脳幹反応(ABR)を中心に以下の方法を用いて実施する。
 ア. 耳鼻科的診察

 イ. 聴性脳幹反応(ABR)
   音に対する聴性反応の電気生理学的検査である。イアホーンでクリック音を聴かせ、これに対する聴神経、脳幹の電気的反応をとらえる。防音室にてクリック刺激によるABRの閾値検査を10dBきざみで90〜95dBまで、左右の耳に対して行い、閾値が上昇しているか判定する。必要であれば500Hzから3000HzのトーンピップABRも行う。両側小耳症・外耳道閉鎖による伝音性難聴が疑われる場合は、骨導ABRも実施することが望ましい。結果の判定の際には、脳幹の未熟性あるいは障害の有無などにも注意する。

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図6.  精密検査用ABRの新生児例 正常値:閾値は20dBで正常反応を示す
 
 
 ウ. 行動反応聴力検査(Behavioral Observation Audiometry)あるいは
    条件詮索反射聴力検査(Conditioned Orientation Reflex Audiometry)
   BOAは乳児の音に対する反応(びっくりする、振り向くなど)を利用して、聴覚検査をする方法である。刺激した音の音圧から聴力の閾値を調べる。
 CORは、音を出すのと同時に玩具などを光をあてて見せる。何度か行った後に音がすると何か見えるという条件づけをする。この後、音だけを出して、音源の方を向くかどうかで聴力を検査する方法である。生後6か月以降の児に実施できる。

 エ. 耳音響放射法(OAE)
   内耳機能を評価するために、歪成分耳音響放射Distortion Product Otoacoustic Emission (DPOAE)を実施する。
 DPOAEは2つの異なる周波数の音(f1とf2)を与えると2f1−f2で計算される音が放射され、これを記録する(図7)。異なる周波数帯の反応が検査できる。

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図7.  精密検査用のDPOA記録 正常反応(左)と反応を認めない例(右)
 
 
 オ. 聴性定常反応(ASSR)
   耳から入る音刺激に反応した脳からの電位を特殊な方法で観察・記録し、難聴の有無や程度を判定する新しい検査法であり、ABR同様、新生児期から検査可能である。話しことばの聞き取りに必要な周波数( 250Hz,500Hz, 1000Hz, 2000Hz,4000Hz )について、詳細な他覚的聴力検査が可能である。

 カ. ティンパノメトリ
   中耳の音響エネルギーの伝わりにくさを測定するインピーダンス検査の一つである。外耳道の気圧を変化させて、中耳のアドミッタンス(音の伝わりやすさの測定値)の変化を測定する。乳幼児では滲出性中耳炎や伝音障害の有無の鑑別に用いる。また、気導聴覚検査が困難な場合に、閾値の推定の参考にする。

 キ. 聴覚発達チェックリスト(資料1)
   聴覚発達について日常の観察結果に基づいて、チェックリストを母親に記入させる。

 聴覚障害の有無については、以上の諸検査により総合的に判断する。閾値が上昇している場合は、早期支援実施機関へ紹介すると共に、数か月以内に、もう1度精密聴力検査を実施することが望ましい。

(3)精密検査の実施時期
 精密診断機関は、早期に支援が開始できるように、すみやかに上記の諸精密検査を実施する。

(4)精密検査の結果と保護者への説明
 精密聴覚検査で、聴覚障害を認めた場合、および、疑いがある場合は保護者に早期支援の必要性と効果、早期支援は保護者の希望および児の障害の程度により、専門家の指導によって、補聴器装用下の聴覚口話法、手話など、適切な方法を用いて行われることを説明し、早期支援を実施している難聴幼児通園施設や聾学校幼稚部などへ紹介する。また、難聴が高度で補聴器の効果がない場合は人工内耳手術により聴覚を獲得することが多いこと、中耳奇形の場合は手術で治療ができる可能性があることも説明する。
 片側聴覚障害の場合は患側の聴覚障害の程度により、補聴器を使用した方がよい場合もあること、また、健側の耳の異常を早く発見するためには耳鼻科的なフォローアップが必要であることを説明する。



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