(4)甲状腺機能と妊娠
ポイント
- 不妊治療の前に必要に応じて甲状腺機能の検査(遊離サイロキシン(FT4)値と甲状腺刺激ホルモン(TSH)値の測定)を行う.
- FT4高値かつTSH低値,FT4低値かつTSH高値の顕性甲状腺機能異常,またはFT4正常でもTSH10mIU/L以上の場合は,不妊治療の前に甲状腺専門医へ紹介する.
- 生殖補助医療を検討しているFT4正常かつTSH高値の潜在性甲状腺機能低下症の場合はレボチロキシンNa投与を開始する(または検討する).
- 生殖補助医療を検討していてFT4正常かつTSHが正常高値(2.5mIU/Lから上限基準値)の場合,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(抗TPO抗体)が陽性であれば甲状腺機能をフォローアップするか,症例に応じてレボチロキシンNa25μg/日の投与を検討する.
1)性成熟期女性での甲状腺異常の頻度
甲状腺疾患は性成熟期女性に好発し,潜在性甲状腺機能異常や抗甲状腺自己抗体陽性者を含めると10%以上にみられ,不妊や不育診療においては,さらにその頻度は高い.
2)甲状腺機能異常の女性の生殖機能への影響
顕性甲状腺機能亢進症では月経異常が頻繁にみられる一方で排卵周期を保持していることが多く1),顕性甲状腺機能低下症は,黄体機能不全や排卵障害,稀発月経を引き起こす1).生殖能力の低下は,おおよそ4mIU/Lを超えるTSH値の潜在性甲状腺機能低下症でも現れる.顕性甲状腺機能異常は流早産,妊娠高血圧症候群,胎盤早期剝離,低出生体重児などの妊娠転帰に影響することから,妊娠前に十分なコントロールが必要である.抗甲状腺自己抗体には抗TPO抗体と抗甲状腺サイログロブリン抗体がある.甲状腺自己免疫抗体が陽性である場合,流早産のリスクが高くなるが,その一因として甲状腺予備能の低下がいわれている.
3)甲状腺機能等の検査
生殖補助医療を検討している不妊症の女性における甲状腺機能異常への臨床的アプローチの1例を示す(図3).まず,FT4とTSH値を測定し,できれば抗甲状腺自己抗体(通常は抗TPO抗体)も測定する.なお,TSH値測定については2021年4月以降,日本全国でのハーモナイゼーション(測定法や測定施設が異なっても同等な測定結果や情報を得ることができるようにすること)が実施され,日本人成人(20~60歳)の基準範囲は0.61~4.23mIU/Lに統一された.
4)甲状腺機能等検査後の対応(図3)(表1)
- 顕性甲状腺機能異常の場合は,不妊治療を始める前に甲状腺専門医へ紹介する.
- 生殖補助医療を検討している女性で,FT4正常かつTSH高値の場合(潜在性甲状腺機能低下症),レボチロキシンNa37.5~75μg/日をTSH値に応じた量で開始(TSH目標値0.60~2.5mIU/L),あるいは,甲状腺専門医へ紹介するといったアプローチがある.
- FT4値とTSH値が正常範囲であっても,TSH値が2.5mIU/Lを超える場合(正常高値TSH),抗甲状腺自己抗体(抗TPO抗体)が陽性であれば生殖補助医療の治療中および妊娠成立後にフォローアップする.また,抗甲状腺自己抗体陽性の場合,卵巣刺激によって誘発される甲状腺機能低下を考慮し,症例に応じて卵巣刺激前から少量のレボチロキシンNa投与を検討する2).抗甲状腺自己抗体が陰性の場合は,甲状腺機能等検査は終了となる.
文献
- 1)Unuane D, et al. Impact of thyroid disease on fertility and assisted conception. Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. 34(4): 101378, 2020
- 2)Poppe K, et al. 2021 European Thyroid Association Guideline on Thyroid Disorders prior to and during Assisted Reproduction. Eur Thyroid J .9(6): 281-295, 2021