(3)卵巣予備能とは?

ポイント

  • 「卵巣予備能」について正式な用語の定義はない.一般的に,卵巣に残っている原始卵胞数の目安として用いられる.
  • 抗ミュラー管ホルモン(AMH:anti-Müllerian hormone)検査により卵巣予備能をある程度知ることができ,不妊治療のステップアップのスピードの判断材料になる.
  • AMH値は生殖補助医療において,1回の調節卵巣刺激で採れる卵子の個数と相関し,適切な調節卵巣刺激の選択と採卵あたりの妊娠率の向上につながる(生殖補助医療管理料算定医療機関で検査した場合のみ保険適用がある).

1)卵巣予備能

 女児において,卵子は胎生期に一度だけ作られ,二度と作られないという特性があり,その後卵子の数は急激に減少する.卵巣に残っている卵子の数の目安が卵巣予備能である.以前より胞状卵胞数(AFC:AntralFollicleCount),FSH基礎値,年齢,そのほかいろいろな卵巣予備能マーカーが検討されてきたが,不妊治療の方針決定においてはAMHが信頼できるマーカーの1つとなっている.胞状卵胞数もAMHと同様に不妊治療の方針決定に有用とされているが,超音波検査に習熟する必要があり,検査者間でのばらつきも大きく一般的には用いにくい.

2)AMHとは

 AMHは原始卵胞からの発育の開始と卵胞成熟に関与しているとされる.AMHは原始卵胞からではなく,原始卵胞から少し発育した前胞状卵胞や小胞状卵胞から分泌される.原始卵胞そのものが多ければ,排卵に向けて育ち始める(リクルートされる)原始卵胞の数も多いと考えられ,間接的に卵巣予備能,原始卵胞数を示すマーカーとなっている.

 血中のAMHは25歳くらいをピークに徐々に下降するため,AMHが卵巣予備能のマーカーとして有用と考えられるのは25歳以降といえる.AMHは男児の胎生早期に男性ホルモンとともに男性器を誘導し,女性器となるミュラー管を退縮させるため,抗ミュラー管ホルモンという意訳が生まれた.現在では女性にとって大切なホルモンと考えられており,アンチミューラリアンホルモンという呼称がふさわしい.

3)AMH値の解釈

 生下時に有している原始卵胞の数は個人差が大きく,AMHは各年齢層で正規分布しないため,平均値は示されているものの正常値を設定することはできない.AMHの低い人は少しずつ減少し,高い人は大きく減少するため,閉経の予想には,それほど有用でない.AMHは,ほかの女性ホルモン,下垂体ホルモンに比べれば変動が少ないので月経周期にかかわらず測定してよいとされているが,多少の日内変動や,月経周期での変動の報告があることは認識しなければならない.AMHが月経周期間である程度変動する原因として,リクルートされた卵胞数の変動が反映さていることが考えられる.6カ月以上かかる原始卵胞発育においてFSH依存性の後半3カ月の間にホルモン療法(GnRH agonist,ピルなど)により卵胞発育が悪くなれば,AMHも当然影響を受ける.このような変動があることを念頭に,厳密な定量検査ではなく,半定量的な検査としてとらえる必要がある.

4)AMHと婦人科診療

 早発卵巣不全ではAMHが測定感度以下を示すことが多い.多囊胞性卵巣症候群(PCOS:polycystic ovary syndrome)ではAMHが過剰に分泌され卵胞発育が阻害されることから,AMH高値が診断基準に組み込まれた.ただし,2024年3月現在,早発卵巣不全やPCOSの診断目的での測定に保険適用はない.

5)AMHと生殖医療

 一般不妊治療においてAMHはステップアップのスピードや生殖補助医療に進むタイミングなどを検討する判断材料になる.生殖補助医療において1回の採卵で採れる卵子数とAMHは相関するとされ,卵巣刺激の選択と妊孕性の予測に有用とする考え方もある(図2).

 なお,男性ではセルトリ細胞からAMHが持続的に分泌されており,造精機能の指標としては役に立たない.

図2.年齢とAMHによるステップアップと卵巣刺激選択の目安

6)AMHの検査法

 AMHの検査法は度々変更があり,測定単位もpmol/mLからng/mLと変化し,測定数値そのものも変化してきた.

 現在はCLEIA法(化学発光酵素免疫測定法)などにより測定が自動化され,測定精度も改善し安定している.