Q1.腹壁創部離開への対応は?

  • 腹壁創部離開の発生頻度は0.3~3%程度と報告されている.
  • 腹壁創部離開の多くは,皮下組織と浸出液への感染および血流障害が原因となっていると考えられる.血流障害については,皮下組織の縫合閉鎖を行う際に血流を保つような結紮力による閉鎖を心がけ,真皮層や筋膜層の閉鎖では正確な手術手技を行う.創部の細菌感染を防ぐ手技としては,閉創の前に皮下組織を中心に温生食による洗浄を行い,細菌数の減少と感染源となり得る組織のdebris の除去を行い,術後に浸出液が貯留しないよう細径ドレーンの皮下への留置などが挙げられる.
  • CDC(center of disease control and prevention)のSSI 予防ガイドライン1)では手術部位感染症(SSI:surgical site infection)を表層SSI,深部SSI,臓器/ 体腔切開創SSI の3つに分類しているが,深部切開層SS(I 感染が切開層の深部軟部組織(筋膜と筋層に及んでいる)以上の感染例では,再手術を含めたintensive な治療が必要となる可能性が高いため,高次医療施設への搬送を考慮すべきであると考えられる.表層SS(I 切開創の皮膚と皮下組織のみに及んでいる)ではクリニックでも対応可能なケースもあり,その対応策と搬送すべき基準について述べる.

(1)診察と発症初期の対応(図47)

  • 創部の観察を行い,表層切開層SSI において炎症所見や膿瘍形成など感染を示唆する所見が認められる場合は,完全に接着していない真皮層を軽い力で開ける範囲で解放する.
  • さらに皮下組織の観察を行い,壊死組織や膿瘍などのdebris を生理食塩水で洗浄し除去する.
  • 創保護は基本的には特別な創保護剤は用いず,ガーゼなどによって覆う程度にとどめ,あくまでdry 環境となることを優先するが,浸出が多く感染リスクが高い場合には銀含有保護剤などを用いて創保護を行う.
  • 自己洗浄が可能な患者は1日に1~2回程度シャワーなどを用いて洗浄を行い経過観察する.恐怖感から自己洗浄が困難な場合は100mL の生理食塩水のボトルに局所洗浄用ノズルなどを使用して創部洗浄を行う.
  • 抗菌薬の投与を行うことも考慮される.発症初期の7日間程度までの投与が想定されるが,使用する薬剤としては黄色ブドウ球菌・レンサ球菌に抗菌力の強い第1世代セフェム系のセファゾリン,もしくは抗嫌気性菌活性をもった第2世代セフェム系(セフメタゾール・フロモキセフ)が推奨される.
  • 離開創長が長く保存的治療により完治までの期間が長期に及ぶと考えられる場合,言い換えれば感染が軽快しており血流不全のみが主な治癒遅延の原因と考えられる場合でも,創収縮のために再縫合や陰圧閉鎖療法も選択肢となってくる.自施設で可能な治療範囲によって搬送(紹介)を行うか自院での治療を継続するかの選択がなされると考えられる.再縫合が可能な施設では,陰圧閉鎖療法を行った場合,創瘢痕が残る可能性や長期間の治療が必要となる可能性を考慮して再縫合を検討してもよいと考えられる.

(2)参考:陰圧閉鎖療法(図48)

  • 陰圧閉鎖療法はV.A.C 治療システムなどを用いて創内にフォーム材を入れ,陰圧閉鎖環境を作ることによって,創傷治癒の促進を図るものであり,近年手術創離開にも使用されている.血流の増加や陰圧環境による創閉鎖によって創の閉鎖期間を短縮する目的で使用される.
  • 浸出液を吸引することが可能で,帝王切開術後のSSI のリスクを減ずることが可能とされている2).
  • 侵襲の少ないよい治療法であるが,創瘢痕が残るといった整容面でのデメリットもある.

 

文献

1) Berrios-Torres SI, Umscheid CA, Bratzler DW, et al. Centers for Disease Control and Prevention Guideline
for the Prevention of Surgical Site Infection, 2017. JAMA Surg.152:784-791,2017
2) Yu L, Kronen RJ, Simon LE, Stoll CRT, Colditz GA, Tuuli MG. Prophylactic negative-pressure wound
therapy after cesarean is associated with reduced risk of surgical site infection: a systematic review and
meta-analysis. Am J Obstet Gynecol.218:200-210 e201,2018