(8)後期分娩後異常出血 late(secondary)postpartum hemorrhage

・分娩後24時間から12週間の間に発生する異常出血のことである.以前は(産褥)晩期出血とも呼ばれていたが,最新の『産科婦人科用語集・用語解説集』では「後期分娩後異常出血」と名称変更されている.
・原因となり得る疾患を挙げる.

・診断のためには理学所見,超音波検査,および血液検査が行われるが,ダイナミックCTやMRIが診断確定に有用となることがある.治療として,interventional radiology による子宮動脈塞栓(UAE:uterine artery embolization)が行われること も多い(図39).

1)症状

・出血.出血多量の場合,ショックバイタルで来院することもある.発熱,子宮圧痛を伴うことがある.

2)原因となる疾患

①子宮復古不全

a.概要
・子宮が元通りの大きさになるのに時間を要すること.
・多胎妊娠,高年妊娠,帝王切開がリスクファクターである.
・子宮内膜炎(感染)を合併することがある.
b.診断
・通常より子宮のサイズが大きい.内腔には凝血塊の内容物を多量に認める.
・超音波検査カラードップラー法で子宮内容物に血流がのらない.
c.治療
・子宮収縮薬の投与
メチルエルゴメトリンマレイン酸塩 例:1 アンプル(0.2mg)を筋肉注射
オキシトシン
例:1 アンプル(5 単位)を細胞外液 500mL に溶解し,2~3 時間で点滴静注
内服ならば,メチルエルゴメトリンマレイン酸塩(0.125mg)3 錠 分 3

②胎盤遺残

a.概説
・胎盤や卵膜の一部が子宮内に残存すること.
・生殖補助医療による妊娠の増加に伴い,増加している.
・近年,胎盤遺残は胎盤ポリープを含めて,retained products of conception(RPOC)
と呼称されるようになっている.
・分娩時に胎盤娩出がスムーズでないことが多く,分娩時出血量も多い.
b.診断
・肉眼的に胎盤欠損がみられた場合,胎盤遺残を疑う.一方で,明らかな欠損が認められない場合でも胎盤遺残がみられることがあるので注意が必要である.
・超音波検査で子宮内の胎盤残存を確認する.
・超音波検査カラードプラ法により胎盤遺残内に血流を確認する.しかし,必ずしも血流がのるとは限らない(図40).
・造影MRIが有用である(図41).
・ヒト絨毛ゴナドトロピン(hCG:human chorionic gonadotropin)が高めで経過することが多いが,hCG が低値でも胎盤遺残が存在することもあり,注意が必要である.
c.治療
・第一選択は子宮内容除去である.しかし,この手技に伴い,出血が増加することがあるため,出血した際の体制を整えて施行する.帝王切開歴や子宮筋腫核出術などの子宮切開既往を有する場合,癒着胎盤である可能性があり,特に注意が必要である.
・子宮鏡下transcervical resection(TCR)を考慮してもよい.
・出血が軽微であれば経過を観察してもよい.
・挙児希望なく,かつ画像検査で癒着胎盤が明らかに疑われる場合は子宮全摘術を考慮してもよい.

③子宮内膜炎

a.概説
・感染に伴う子宮内膜の炎症である.
・Group A Streptococcus,MRSA,Clostridium perfringens などは急激に増悪する全身感染症を引き起こすこともあり,注意が必要である.
b.診断
・子宮圧痛,発熱,悪臭を伴う悪露など.
・血液学的所見において,左方移動を伴う白血球増多,CRP 上昇.
c.治療
・(起因菌が判明するまで)広域抗菌薬の投与を行う.
・子宮内容物(血腫,卵膜)が十分に存在する場合は,子宮内容除去を考慮する.
・全身感染症,敗血症の場合は,高次医療機関で集学的管理を行う.

④子宮動脈仮性動脈瘤(UAP:uterine artery pseudoaneurysm)

a.概説
・帝王切開後に多い.帝王切開時に子宮動脈やその分枝が一部損傷するが,周囲組織で被覆されいったんは止血する.しかしながら,出血は続いていて,多くの場合,
子宮内腔に瘤を形成する.この瘤が破裂した場合,出血が増量する.
・発生率 0.1%程度の稀な疾患とされてきたが,近年の報告では発症頻度はこれより高く,正常経腟分娩後や流産後にも発生すると報告されている.
b.診断
・超音波検査 B モードで子宮内腔に低輝度の“瘤”を認める.
・超音波検査カラードプラ法で,瘤内に渦巻くような乱流(turbulent flow,ying-yangサイン)を認める.
・確定診断は血管造影検査によって行うが,検査の侵襲が大きいため,UAE を予定する患者以外は行いづらい.超音波検査で UAP が疑われた場合,実際はダイナミック CT 検査を施行することが多い.出血が持続していれば造影剤の漏出 (extravasation)を認める.
・超音波検査では胎盤遺残と UAP が鑑別困難なことがある.
c.治療
・基本治療は UAE である.
・出血を伴わない偶然発見例についても UAE を考慮するが,瘤が小さい場合は,自然軽快することもあり,患者とメリット,デメリットを勘案の上,方針決定する.

⑤先天性血液凝固異常

a.概説
・凝固能が先天性に障害され,出血原因となる.
・低フィブリノゲン血症,血友病,von Willebrand’s病などがある.
b.診断
・分娩時出血量が多量であることが多い.
・月経量や家族歴が参考になる.
・子宮復古不全様の所見を示す.子宮収縮薬を投与しても出血のエピソードが繰り返し発生する.
・血算,hCG,プロトロンビン時間,活性化部分トロンボプラスチン時間,フィブリノゲン値,凝固因子活性などを調べる.
c.治療
・(血液)内科紹介.
・凝固因子補充,血小板輸血など.