(5)IVR(UAE)処置後のフォローについて

・産科危機的出血における止血法は,局所止血と血流遮断に大別される.
・バルーンタンポナーデや子宮圧迫縫合(compression sutures)は局所止血に分類され,stepwise uterine devascularizationやUAE(uterine artery embolization)は血流遮断に分類される(図53)1).
・両者の選択は,手技実行の速さや期待される効果を考慮し行われるべきである.
・より簡便な局所止血が先んじて行われるが,止血不成功の場合には血流遮断による止血が行われることになる.この切り替えのタイミングをいかに見極めるかが止血成功率向上のポイントである.
・局所止血法である圧迫縫合であっても血流遮断と同様の合併症の報告があり,stepwise uterine devascularizationやUAEといった血流遮断ではその頻度はさらに増加することに注意する必要がある.

・UAE後の妊娠においては不妊症,流早産,分娩後出血,胎児発育不全などの増加が報告されている2~5).また,癒着胎盤や常位胎盤早期剝離についても症例報告があり注意を要する6).
・妊娠中から産後の子宮は卵巣動静脈などからの血流が増えているため,子宮動脈を塞栓しても子宮筋の虚血は重度には起こらないとかつては考えられていた.しかし,子宮の増加した血流の供給の多くは子宮動脈が担っており,そこを一時的とはいえ塞栓すれば子宮筋の虚血は避けられない.ただし,非妊娠時の子宮筋腫などに対して行われるUAEと異なり,腹痛を訴えることが少ないことから,虚血の程度は異なると考えられる.
・UAE後の合併症が起きることは報告されているが,その現象を産後からフォローしている報告はほとんどない.
・分娩後外陰血腫・弛緩出血のために救急搬送となりUAEを実施し,その後に造影MRIで子宮血流を経時的にフォローした自験例 7)を示す(図54a).UAE後2カ月経過しても子宮筋層は表層のみ造影効果あり,内膜近傍の筋層には造影効果なしであった(図54b).UAE後8カ月に実施された造影MRIでは,子宮筋層の大部分で増強が回復したことが示されたが,それでも子宮底の後壁中央部にはまだ造影が不十分 な領域が残っていた(図54c).同部位は子宮筋層壊死による子宮壊死組織であった.
・UAE後の妊娠中に子宮破裂を来した自験例8)でも,子宮破裂部位は上記と同じ子宮底の後壁中央部であった.
・すなわち,子宮底の中央後壁が左右の子宮動脈の終末細動脈の狭間の流域であると考えられ,UAEによって虚血を起こしやすい部位であることが想定される.
・次回の妊娠を希望する女性がUAEを選択する傾向にあるため,他の止血法が無効である場合にのみUAEを実施することが望ましい.

文献
1)Takeda S, Makino S, et al. Japanese Clinical Practice Guide for Critical Obstetrical Hemorrhage(2017 revision). J Obstet Gynaecol Res. 2017; 43: 1517-1521.
2)Sentilhes L, Gromez A, et al. Fertility and pregnancy following pelvic arterial embolization for postpartum haemorrhage. BJOG. 2010; 117: 84-93.
3)Mclucas B, Voorhees iii WD, Elliott S. Fertility after uterine artery embolization: a review. Minim Invasive Ther Allied Technol. 2016; 25: 1-7.
4)Mara M, Maskova J, et al. Midterm clinical and first reproductive result of a randomized controlled trial comparing uterine fibroid embolization and myomectomy. Cardiovasc Intervent Radiol. 2008; 31: 73-85.
5)Goldberg J, Pereira L, et al. Pregnancy outcomes after treatment for fibromyomata: Uterine artery embolization versus laparoscopic myomectomy. Am J Obstet Gynecol. 2004; 191: 18- 21.
6)Soeda S, Kyozuka H, et al. Uterine artery embolization for uterine arteriovenous malformation is associated with placental abnormalities in the subsequent pregnancy: two cases report. Med Sci. 2014; 60: 86-90.
7)SanoY, Takeda J, et al. Embrittlement of uterus after uterine artery embolization: a case of uterine perforation. Hypertens Res Pregnancy. 2016; 4: 42-44.
8)Takeda J, Makino S, et al. Spontaneous uterine rupture at 32 weeks of gestation after previous uterine artery embolization. J Obstet Gynaecol Res. 2014; 40: 243-246.