3.災害対策本部内における搬送調整,物資調達の流れ

 大規模災害発生時には被災都道府県は現地災害対策本部内に保健医療調整本部を立ち上げる.保健医療調整本部は災害対策のうち保健医療活動にかかわる事柄を総合調整する部署である(図19).保健医療調整本部ではDMAT(disaster medical assistance team),JMAT(japan medical association team),日赤救護班などの種々の医療活動チームの派遣調整や災害医療にかかわる情報収集,整理,分析が行われている.

 災害時小児周産期リエゾン(以下,リエゾンとする)は災害時に保健医療調整本部において災害医療コーディネーター,DMAT,行政などと小児周産期領域をつなげる コーディネーター機能・人員として2016年から養成が開始され,国の防災基本計画にも盛り込まれている.彼らは被災地の保健医療活動を支援する目的で都道府県より任命された者であり,2019年までで約450名が講習会を受講している(図20).2019年に具体的な活動要領が定められたが,2017年7月九州北部豪雨災害,大阪府北部地震,2018年7月豪雨,北海道胆振東部地震においても活動実績がある(36頁参照)

 2016年に発生した熊本地震急性期におけるリエゾンの保健医療調整本部での活動の概要について以下に示す(8頁参照)

1.日産婦学会災害システム関連

 PEACEへの書き込み,被災地情報の調査など

2.母体搬送・物資搬送の調整

①母体搬送の調整

 大学病院,災害拠点病院,消防,自衛隊などと連携

②物資搬送の調整

 リエゾンと日産婦学会が日産婦医会と連携して被災地への物資搬送を行った.電気,ガス,水道は分娩時に不可欠であり発災時にはライフラインの途絶が問題となった. 水の供給は保健医療調整本部内の自衛隊に交渉し水の供給可否を調整した.産婦人科施設でのガス供給停止は帝王切開や分娩時に使用するガス滅菌に影響を与えた.日産婦学会・医会が医療機器滅菌メーカーに依頼して近隣県で機器のガス滅菌を行いリエゾンが被災地へ滅菌済み機器の搬送を調整した.また災害時の帝王切開に利用可能なガス滅菌済みの災害時帝王切開フルセットもあったが,利用に際しては日産婦学会を通じた供給依頼が必要であった.急性期から亜急性期にかけて地域の基幹施設やリエゾンに要請される支援物資は分娩セット,産褥セット,おむつ,ミルク,水,新生児の衣類などであった.これらの物資供給に対しては搬送車両の手配も必要であり,発災時にリエゾンが基幹施設との間で早期から必要物資のリストアップを行い,日産婦学会・医会と連携して調達を行い,必要量の1.5~2倍量を被災地の基幹施設にプッシュ型(依頼元の要請を待たずに)で搬送したことが有効であった.また現地への搬送は災害対策本部内のトラック協会や自衛隊に輸送を依頼した.物品の保管先は被災地の基幹施設に一元化して保管した.