(2)外国人旅行者について

1)外国人旅行者の特徴

 2018年末の観光庁の発表によると訪日外国人(主に旅行者)は3,000万人を越えた.2013年に1,000万人を突破したので,わずか5年間で3倍増加している.2020年には4,000万人との政府目標があるが,東京オリンピック・パラリンピックが開催されることもあり,目標達成も決して難しくはない.
 日本への外国人旅行者は,近隣の非英語圏である東アジアの国からが大多数を占める(平成30年度版観光白書).来日が複数回となるリピーターは全体の6割に達し,そのうちの86%が韓国・台湾・香港・中国からである.旅行形態は団体から個人にシフトしており(約3/4が個人旅行),不測のトラブルがあった場合,旅行者が自力で対応しなければならない.

2)外国人旅行者の疾病発症の確率と課題

 2018年日本は地震・台風などの自然災害に見舞われ,外国人旅行者が情報弱者となる事例が多発した.医療機関は日本社会の外国人対応能力の脆弱性が顕著に出る場所の1つである.
 観光庁の調査(訪日外国人旅行者の医療に関する実態調査結果2018年)によると,外国人旅行者の6%が「日本旅行中に怪我・病気になった経験がある」と回答している.また1.5%が病院に行く必要があると自覚していたが,実際に受診をしたのはその中の約4割であった.受診を控えた理由として「日本の医療機関について必要な情報が得られなかった(52%)」,「初めから病院に行くことを諦めていた(32%)」であった.初めから受診を諦めた理由として「言語に不安があった」「時間がなかった」がそれぞれ23%を占めていた.このデータから外国人旅行者にとって医療機関の受診に至るまでに高いハードルがあることが示唆される.

3)外国人旅行者の産婦人科系疾病と課題

 旅行者の背景から,妊娠に気がついてから来日したケースもあるであろう.国際線は出産間近には一定の制限はあるが,12週から28週までの期間には特に制限はない(予定日より28日以内は医師の診断書,14日以内は産科医の同伴が求められている.早産既往者や多胎妊娠の場合の制限は航空会社により異なる).よって訪日妊婦のリスクは正期産時ではなく,流早産が多いと考える.
 妊娠は病気ではないため流産・早産・出産は通常旅行保険の対象外である.特に早産によるNICU入院などは費用が高額となり,患者側の支払い能力が問題となる.