1.災害の周産期医療への影響

  1. 周産期医療分野における災害対策で,最も重要なのは,「周産期医療分野は,災 害が発生しても医療需要が変化しない」ということである.災害発生時にも,陣痛は普通に発来する.予定帝切を延期すると,陣発して緊急帝切が必要になり,現場の負担がさらに大きくなるので,延期する場合も限度がある.
  2. 家族の重要な一員として被災地に留まらざるを得ず,被災地外への遠距離避難が難しい妊婦が多く,被災地内での産科診療の継続が必要になる.
  3. わが国では,産科診療所や産科病院が過半数の分娩を担当している.大規模災害が発生し,停電,断水などライフラインの途絶が起きると,こうした一次周産期医療 機関は,一時的に機能停止を余儀なくされる.その際,診療機能が維持されている施設で,分娩対応を集中的に行う必要が生じる.東日本大震災の際には,正にそのような状況になり,分娩対応を行う施設での分娩セットなどの滅菌資材,衛生材料, 乳児用調製粉乳,安全な飲料水の確保が大きな課題になった.
  4. 被災地で分娩対応を継続する施設に対しては,物的な支援だけでなく,産科診療を行う医師,助産師などの人的支援が必要になる.
  5. 集中して分娩を担当する施設では,分娩数の増加のため産褥の入院期間の短縮をせざるを得ず,退院後帰宅先のない母子への対策も必要になる.
  6. 避難所では妊婦,母子に強いストレスがかかる.車中泊を選択するものが多くなる.被災地内の妊婦,母子の実態把握とそれに基づく適切な支援の提供が必要になる.
  7. 行政機関の機能停止,公共交通機関の機能停止,避難所への収容などのために,母子健康手帳の交付(再交付),妊産婦健康診査,予防接種などのサービスを受けるのが難しくなる.

・このような影響が,大規模災害時には必ず発生する.必要な施策をあらかじめ準備しておく必要がある.