(1)外国人住民のための出産・育児支援について

<事例 11 >
日本で留学中の外国人女性が妊娠し,クリニックで分娩することになった.
①留学生が妊娠中に受けることができる支援は?
②分娩後に母児が受けることができる支援は?

Answer

①外国人留学生の妊婦は,日本人が受けられる支援と同様のものを受けることができる.
 母子健康手帳交付はもちろんのこと,産科医療補償制度や助産制度,出産育児一時金制度などの妊産婦にかかわる制度を利用することができる.妊婦が日本の出産・育児制度が分からなかったり,日本語が不十分といった場合は,外国語併記の妊娠・子育てに関する資料を提供することができる.また,コミュニケーションをとる際に日本語が不十分であれば,医療通訳を提供する自治体や民間のサービスを利用することも可能である.
 留学生の場合の注意点としては,出産・育児で学校を欠席する場合は在籍する学校および入国管理局に届け出をしないと出席率などの関係で在留資格に影響を及ぼす場合があるため,欠席する前の早い段階で確認するよう促すことが必要である.
②住民登録をしている自治体の母子保健担当が行っている母子訪問や乳幼児健診を受けることができる.生まれた子どもは自治体からの接種券を利用し予防接種を受けることができる.

<事例 12 >
 不法就労している外国国籍の未受診妊婦が陣痛発来のためクリニックを受診し,分娩となった.
①クリニックの事務は何をしたらよいか?
②クリニックの医師は何をしたらよいか?
③分娩費の支払いはどのようにしたらよいか?
④退院後の母児の支援はどのようにしたらよいか?

Answer

①母子保健法は,国籍や在留資格に関係なく,日本で妊娠しているすべての女性に適用されるものであるため,妊婦が在留資格のない非正規滞在者であったとしても,通常の手続き・対応を行う.母子健康手帳を取得していない場合があれば,本人と相談の上,自治体との連絡調整を行う.在留資格がなくても,母子健康手帳の取得(母子保健法16条),入院助産(児童福祉法22条)を受けることができる.
②まずは医師として安全な出産につなげることが第一である.外国人妊婦の在留資格などにかかわらず,陣痛発来の未受診妊婦の場合,従来そのクリニックで行っている未受診妊婦の対応と同様に対応するのが適切である.
 言語でのコミュニケーションに問題が生じた場合などは,電話やタブレット通訳などの医療通訳サービスを活用することも考えるとよい.
③外国人患者に支払い能力があれば,通常どおり支払いを受ける.出産育児一時金の請求も通常どおり行う.健康保険をもっておらず,経済的に支払いが困難であれば,本人と相談の上自治体に相談する.
④自治体の母子保健担当課につなぎ,その後の支援を引き継ぐ乳幼児に対する健康診断(母子保健法12条),未熟児に対する養育医療(母子保健法20条)は在留資格にかかわらず受けることができる.言語や文化によりコミュニケーションに難しさがある場合は,外国人住民支援をしている団体や国際交流協会の外国人相談窓口などにつなぐことにより,外国人への支援が可能な団体やサービスの紹介を受けることができる(P79表9参照)(後述参照).

(1)外国人住民のための出産・育児支援について

 日本に居住する外国人が妊娠・出産し,子育てをする際,多くは出身国と日本との出産・育児制度の違いに戸惑いを感じている.日本で当たり前の制度が出身国にはなかったり,出身国で当然のことが日本では非常識と思われたりすることなど,その違いによって支援する側も外国人側も相互理解が図れずに困惑するケースを度々目にする.
その対応策として,1~4に示す資料などを使うことにより,支援者と外国人が一緒に出産・子育ての流れを確認することができる.
①「外国人住民のための子育てチャート~妊娠・出産から小学校入学まで~」
 日本において,妊娠が分かってから,子どもが小学校に入学する前までの行政サービスなどの主な流れが記載されている.言語は,7言語に日本語を併記したものである.出産前から妊婦とコミュニケーションをとる産婦人科でも子育てチャートは活用できる(図39).

 STEP1では「ママになる準備」として,出産前に行う分娩予約や母子健康手帳交付などの諸手続きについて紹介.STEP2は「生まれてからすること」として,役所,入国管理局や大使館で行う手続きを記載.STEP3では「赤ちゃんとママの健康のために」として,産後に受ける母子保健の行政サービスなどに関することを記載している.最後のSTEP4では「おうちから地域へのはじめの一歩」として,子育て支援サービスや保育園・幼稚園など,地域の小学校に通う場合の手続きも紹介している.
 外国人住民に妊娠中からの子育ての大まかな流れを示すことにより,出産してから右往左往することなく,6歳までの見通しを立てて行動できるようになることを目的としている.
言語:英語,中国語,タガログ語,ポルトガル語,スペイン語,ベトナム語,ネパール語 発行:公益財団法人 かながわ国際交流財団
※紙版のチャートは母子保健事業団より入手できるほか,「外国人住民のための子育て支援サイト」(http://www.kifjp.org/child)からも確認することができる.
②動画:外国人住民のための日本の子育て
 上記の子育てチャートは,イラストと簡単な文章で構成されているが,日本の滞在年数の浅い外国人などにとってはそれだけでは具体的に想像しにくい場合も多い.「外国人住民のための日本の子育て」という以下3つの動画も外国人住民にとって役に立つ.http://www.kifjp.org/child/chart
作成・発行:公益財団法人 かながわ国際交流財団
1.外国人住民のための子育てチャート(12’37”)
2.母子手帳ってなあに?(08’02”)
3.母子訪問について(07’10”)
 1つ目は,子育てチャートの流れ,2つ目は母子手帳,3つ目の母子訪問について分かりやすく動画にしたものである.特に,母子手帳や母子訪問は日本特有の制度であるため,外国人住民が実際にそのサービス受けている場面を撮影し,ポイントを伝えている.動画は1と同じく7言語に対応し,PCやスマートフォンから観ることができるため,いつでもどこでも気軽に確認することができる.インターネット環境のない場合は,母子保健事業団よりDVDを入手することが可能である.
③母子健康手帳外国語併記版
 母子健康手帳に母国語と日本語が併記してあると,医療従事者と外国人患者の双方が記載内容を確実に確認できる.また,外国人は日本と母国との行き来も多いため,国外でも記録が確認できるよう工夫してある.特に予防接種などは,国内外の記録が1つにまとまっていると分かりやすい.使用する母親が日本語を理解できる場合でも,海外との行き来がある場合は外国語母子健康手帳を出すことによって,かかわる医療従事者へ両国での経験を情報提供し,リスクを軽減できる.
 なお,外国語母子健康手帳は2019年3月現在,株式会社母子保健事業団が9カ国語を発行している(https://www.mcfh.co.jp).
<言語>
英語,中国語,ハングル,ベトナム語,タイ語,タガログ語,インドネシア語,ポルトガル語,スペイン語(販売:母子保事業団)
④母子保健:産前・産後確認シート(図40)
 外国人が日本で出産・子育てするうえで,関連する手続きやサービスがどのようなタイミングで進むのか,子育てチャートとあわせて開発された.この産前産後確認シートは,ウェブサイトからダウンロードすることができる.
 産婦人科での初診で出産予定日や産院名などを記載してから,役所とのやり取りなども記載し,自宅の分かりやすい場所に貼っておくことによって手続きや健診などの受け忘れなどを防止することができる.日本語との併記になっているので,支援者側は外国語が分からなくても伝えることができる.