(4)子宮内膜症への対応

治療総論

1 )子宮内膜症治療の基本的な考え方

・子宮内膜症治療の目的は以下の3 点である.

①月経困難症・慢性骨盤痛などの疼痛の緩和
②不妊症に対する妊孕性改善
③卵巣チョコレート囊胞の破裂,感染,癌化の予防

・現在用いられている治療方法
①対症療法:NSAIDs をはじめとする鎮痛薬や漢方薬.
②内分泌療法:LEP 製剤,ジエノゲスト,ジドロゲステロン,LNG-IUS,GnRH アゴニストなど.
③手術療法:卵巣チョコレート囊胞摘出術,付属器摘出術,子宮内膜症病巣摘出,癒着剝離術などがある.近年は大部分が腹腔鏡手術で行われている.
・治療方法は,治療目的,病巣部位(特に卵巣チョコレート囊胞の有無や大きさ),年齢,挙児希望の有無,妊孕性温存の要否などの因子によって決定される.
・子宮内膜症治療では疼痛によるQOL の低下を改善することが主体となるが,若年女性では将来の妊孕性温存や,高年女性では卵巣チョコレート囊胞の悪性化予防や早期発見が重要であるため,ライフステージ全体を見据えて治療の選択を行う必要がある(図11).
・本稿では図12 に示したフローチャートに沿って,子宮内膜症治療の基本的な考え方を解説する.


2 )挙児希望のある子宮内膜症の治療

・妊孕性改善については,ART においてGnRH アナログやダナゾールを組み合わせることで妊娠率の向上が期待されるが,それ以外の一般不妊治療においては薬物療法の有効性を示すエビデンスがなく,手術療法と不妊治療が主な治療法となる.
・子宮内膜症合併不妊において手術療法が必要となるのは,以下の3 つの場合である.
 ①卵巣チョコレート囊胞が大きい(4~5㎝以上)場合
 自然妊娠の障害,ART 時の採卵の障害,妊娠中の破裂や感染の危険性の回避目的
 ②子宮卵管造影やMRI などの画像診断で付属器周囲の癒着が疑われ,かつ自然妊娠を希望する場合
 ③月経困難症・慢性骨盤痛などの疼痛が高度で不妊治療に差し障る場合
・上記の条件に当てはまらない場合には,可及的速やかな妊娠を目指してART を行う.

3 )現段階での挙児希望はないが,将来の妊孕性温存が必要な子宮内膜症の治療

・卵巣チョコレート囊胞に対する囊胞摘出術を行うことで,卵巣の予備能が低下するため,将来の妊孕性温存のためにはできるだけ手術を避けることが望ましいが,一方で卵巣チョコレート囊胞の存在自体が卵巣予備能の低下を招く.また,卵巣チョコレート囊胞の破裂や感染により妊孕性の低下の危険性もある.
・したがって,ある程度の大きさ,例えば6㎝以上あるような卵巣チョコレート囊胞についてはまず手術を行う.
・一方,小さな卵巣チョコレート囊胞は内分泌療法により縮小する可能性があるので,手術よりも薬物療法を先行させる.
・内分泌療法によって,月経困難症・慢性骨盤痛などの疼痛がコントロールできない場合や卵巣チョコレート囊胞が増大する場合には手術を行う.
・手術療法後には,術後再発予防のために挙児希望するまで内分泌療法を継続する.

4 )妊孕性温存が不要な子宮内膜症の治療

・これ以上の挙児希望がない場合や,40 代後半になって実際には妊娠が望めない場合,大きな卵巣チョコレート囊胞に対しては,破裂,感染,悪性化の予防という観点から手術を優先的に考慮する.
・卵巣チョコレート囊胞がないか小さい場合には,月経困難症・慢性骨盤痛などの疼痛に対して内分泌療法を行う.ただし,高年齢化による乳癌や血栓症のリスクの増加には注意を要する.
・内分泌療法を行っても,疼痛が改善しない場合や卵巣チョコレート囊胞が増大する場合には手術を行う.
・卵巣チョコレート囊胞も小さく,疼痛も軽度であれば経過観察が可能である.

治療を行うに際しての留意点

・年齢や,ホルモン薬の種類,術式,子宮筋腫・子宮腺筋症の合併の有無などを考慮すると非常に複雑になるため,図12 のフローチャートは原則的な治療方針のみを示すように簡略化した.日常遭遇する具体的な治療は各論を参照.
・フローチャートを概観すると,子宮内膜症の治療は,挙児希望がなく,妊孕性温存が不要となり,卵巣チョコレート囊胞が縮小し,疼痛がなくなるまでは,ループが閉じた状態のままで終了しないということが理解できる.
・したがって,子宮内膜症の治療は,発症から閉経に至るまで長期間の管理が必要となるため,長期的な有効性と安全性を念頭に置いて,適切な治療法とタイミングを選択することが重要である.