(3)Leiomyoma:子宮筋腫

ポイント

  • 子宮筋腫はAUB を呈する器質性疾患の中で最多である.
  • 子宮内での局在(粘膜下子宮筋腫タイプとその他のタイプとの区別)や,妊孕性温存の必要性を勘案して治療方針を決定する.

 

  • 日本産科婦人科学会小委員会による調査(21 頁 総論4 参照)において,AUB を主訴とした初診患者8,081 人をPALM-COEIN 分類で評価したところ,器質性疾患(PALM)の中では子宮筋腫を有するAUB 患者が最も多かった1)(図13).
  • 本稿ではFIGO AUB system 2;PALM-COEIN のうち,L:leiomyoma すなわち子宮筋腫に関して述べる.

1 )子宮筋腫とAUB のメカニズム

  • 子宮筋腫とAUB の関連は,子宮内膜面積の拡大,血管の増生,子宮収縮の変化,子宮筋腫の変性,子宮筋腫の圧迫による子宮静脈拡張などが指摘されている2).

2 )診断方法

  • 超音波断層法検査(超音波検査)がまず行われる.MRI 検査は子宮腺筋症などとの鑑別に有用である.まずはPALM-COEIN の子宮筋腫leiomyoma(L)と診断をつける.
  • 子宮筋腫の評価として,画像(経腹または経腟超音波検査,MRI 検査)に基づく子宮全体の推定体積値,および子宮筋腫数の推定値を得ておく(画像診断ができない場合,妊娠○週相当の子宮サイズと記載しておくことは可能である).
  • 位置は,短軸方向(前壁,後壁,左,右,または中央),および長軸方向(上半分,下半分,またはその両方)を記載.
  • 推定体積は,4 個以上存在する場合は,少なくとも最も大きい子宮筋腫について記録する(図14).
  • 子宮内膜や漿膜との位置関係が判別できる場合,子宮筋腫の細分類について記述する.子宮筋腫の細分類として粘膜(子宮内膜)面の子宮筋腫による歪みの観察を子宮鏡検査,子宮卵管造影検査を用いて行う.子宮鏡検査時の注意点として,子宮内腔を可視化できる最低の充填圧に基づいて検討を行うことが,子宮筋腫の内腔への突出度を評価するために重要である.

3 )FIGO が提唱する子宮筋腫分類方法

  • これまで子宮筋腫を粘膜下,筋層内,漿膜下筋腫と大きく分類してきたが,複数の領域を占拠するような子宮筋腫などの表記は難しかった.
  • FIGO は図14 に示すように,子宮筋腫を子宮粘膜,筋層および漿膜との位置関係によりタイプ0~8 に分類することを提唱しており,特に子宮内腔病変をLeiomyoma (L)-submucous(SM)としてFIGO 分類タイプ0~2 に分類した.
  • タイプ3 は子宮内膜に接するタイプの筋層内筋腫であり,タイプ4~8 をL-other(O)と示している.漿膜に突出しているタイプ5,6,7 は粘膜側に突出しているタイプ2,1,0 と鏡面の関係にあることに注目されたい.
  • 本分類は2019 年に日本産科婦人科学会会員に紹介された3).FIGO 分類を用いて子宮筋腫の位置を細かく分類することで,子宮筋腫が生体に与える影響について詳細な検討は可能となるが,症例数が減ることから,多施設での包括的な検討が必要になってくると思われる4).

4 )PALM-COEIN 分類と臨床との関連

① AUB とPALM-COEIN 分類

  • FIGO 分類の粘膜下子宮筋腫(L-SM,タイプ0~3)は経血量の増加と関連することが知られている2).Yan らは単発の粘膜下子宮筋腫(L-SM,タイプ0~2)259 例を集めた詳細な解析を行い,筋腫サイズが2㎝未満であれば,子宮筋腫の突出度と血中ヘモグロビン値(Hb)間に関係を認めなかったが,子宮筋腫サイズが2㎝以上あれば,突出度が高いほど,Hb が低下する傾向にあることを認めた5).

②子宮筋腫が不妊に与える影響について

  • 不妊症の観点からは,子宮筋腫の解剖学的位置,すなわち粘膜下,筋層内,漿膜下のいずれに存在するかより,その取り扱いは異なる.体外受精患者における子宮筋腫の位置と妊娠率に関するメタ解析では,粘膜下子宮筋腫(L-SM,FIGO 分類タイプ0~2)は正常子宮に比べて3 割程度に妊娠率を低下させるとしている6).
  • 粘膜下子宮筋腫に対しては,2㎝以上の粘膜下筋腫は切除により妊娠率が向上するとされている7).不妊症という観点以外からも,AUB の症状を有することが多いと思われ,患者にとっても手術は受け入れやすいものと思われる.
  • 筋層内筋腫症例の妊娠率は正常の8 割にとどまっており,体外受精患者に限っても,筋層内筋腫患者のうち,2 割の症例では子宮筋腫が原因で不妊症になっていると想定される6).FIGO 分類タイプ3,すなわち100%筋層内筋腫ではあるが子宮内膜に接するタイプの子宮筋腫97 例を正常子宮194 例と比較し,体外受精の妊娠率に影響を与えるかを後方視的に検討した論文では,3㎝以上もしくは多発子宮筋腫が着床に悪影響を及ぼすことを示している8).同様にタイプ3 のみに注目した研究では,2㎝以上のタイプ3 子宮筋腫は臨床妊娠率,生児獲得率が正常子宮群と比して低い一方で臨床流産率に群間有意差はなかった9).つまり,2~3 ㎝以上のタイプ3 子宮筋腫は不妊症の原因になる可能性がある.筋層内筋腫に対して子宮筋腫核出術を行うことで妊娠率が上昇するかどうかの結論は出ていない.
  • 前述の子宮筋腫の位置と妊娠率に関するメタ解析6)では,漿膜下子宮筋腫は妊娠率を低下させないとしている.

5 )治療

  • PALM-COEIN 分類でAUB の原因としてL(leiomyoma)と診断をつけた場合,L-SM(粘膜下子宮筋腫タイプ)とL-O(その他のタイプ)を区別すること,また挙児の希望・必要の有無を問診することは,その後の治療方式の選択にもつながるので重要である.

① L-SM(粘膜下子宮筋腫)

  • 手術を選択する場合,子宮鏡下子宮筋腫摘出術は一般的に子宮筋腫径が30㎜以下かつ子宮内腔への突出度が50%以上を目安とする10).つまりFIGO 分類タイプ0,1 が子宮鏡下子宮筋腫摘出術のよい適応になる.

② L-O:粘膜下子宮筋腫以外の場合

  • 妊孕性温存希望の有無により治療法は異なる.現段階でコンセンサスが得られている治療を下記に記す.

a.妊孕性温存希望なし

  • 過多月経,月経困難症,圧迫症状などの症状を有する場合は,原則,子宮摘出術を行う10).手術の代替療法としては子宮動脈塞栓術がある.
  • 手術を希望しないケースにはホルモン療法などを行う.過多月経の改善のためには,レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)やエストロゲン・プロゲスチン配合薬やプロゲスチン製剤を用いるが,子宮筋腫が増大する症例があることには留意すべきである.特にLNG-IUS の場合,装着後の子宮内腔の拡大により脱落する可能性がある11).子宮筋腫のサイズが大きいという理由でLNG-IUS 装着を断念する必要はないが,装着前に脱落の可能性とその後の手術療法への移行も考慮した説明が必要である.2019 年からは,経口GnRH アンタゴニスト製剤の使用が可能となった.
  • 手術を希望しない場合,マイクロ波子宮内膜アブレーションも,選択肢の1つとなる.

b.妊孕性温存希望あり

  • 過多月経,月経困難症,圧迫症状,不妊などの症状を有する場合や長径5~6㎝を超えるものは核出術の要否を検討する10).産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020 10)では,前回妊娠分娩時に子宮筋腫による障害があった場合に核出術が勧められている.
  • 一方で,核出術後の合併症として,妊娠中に子宮破裂を起こすリスクが1%未満ながらあるため,不妊期間,患者年齢なども含めて包括的な評価が必要である.

 

文献

1 )日本産科婦人科学会雑誌.72(6):669-671,2020
2 )Lasmar RB. Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol. 40:82-88,2017
3 )日本産科婦人科学会雑誌.71(6):850-853,2019
4 )Munro MG. Fertil Steril. 111:629-640,2019
5 )Yang JH. Fertil Steril. 95,2011
6 )Somigliana E. Hum Reprod. 13:465-476,2007
7 )Brady PC. Curr Opin Obstet Gynecol. 25:255-259,2013
8 )Bai X. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 247:176-180,2020
9 )Yan L. Fertil Steril. 109:817-822,2018
10) 日本産科婦人科学会/ 日本産婦人科医会.産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020,東京;日本産科婦人科学会,2020
11)丸尾猛.Hormone Frontier in Gynecology.17:159-165,2010