(3)新規臨床試験のデザイン(武隈宗孝)

 臨床の現場で人を対象として行う研究すべてを「臨床研究Clinical Research」と呼ぶ.そして臨床研究のうち,介入を伴う前向き試験を「臨床試験Clinical Trial」と定義する.ここでいう「介入Intervention」とは,個々の患者に一般的に行われる治療,予防,診断,看護ケアなどとは異なり,その研究で評価したい治療法,予防法,診断法,看護ケアなどを特に限定して,研究対象の患者に一律に行うことである.
 臨床試験を計画する上で知っておくべき事項を,「非生命現象の実験」や「動物実験」と比較して表5 にまとめた.

 すなわち,臨床試験は「事実の把握」のために行うのではなく,臨床の現場における「意思決定」のために行うものであり,試験結果に対する臨床的「価値判断」が必要になる.そのため臨床試験を計画する場合,その試験で予測される結果にどの程度「社会的価値Social Value」があるかを検討することから始めなければいけない.
 いまだ有効な治療法が見つかっていない疾患に対する医療needs のことを「Unmet Medical Needs」という.Social Value の高い試験は,Unmet Medical Needs に対する結論が得られる試験と言えるであろう.婦人科悪性腫瘍領域では,プラチナ抵抗性卵巣癌,根治的同時化学放射線療法後に残存腫瘍を認める子宮頸癌,2 次治療後の再発子宮体癌などに対する臨床試験が挙げられる.
 試験を計画するにあたり最初に行うべきことは,クリニカル・クエスチョン(CQ)の立案である.具体的なCQ を臨床試験で解答可能な形に整理したもので,癌治療に関する臨床試験ではPatien(t 対象),Intervention(新規治療),Comparison(対象に対する標準治療),Outcome(評価項目)からなるPICO 形式で記述すると分かりやすい.
 本邦で行われているNINJA 試験(JapicCTI- 153004)を例に挙げて,本試験におけるCQ を表6 に示した.NINJA 試験はプラチナ抵抗性再発卵巣癌を対象とし,あらゆる癌腫でその効果が証明されている免疫チェックポイント阻害薬の効果を検証する試験で,Unmet Medical Needs に解答するSocial Value の高い試験と言える.