(1)疼痛への対応

*治療各論では,子宮腺筋症の事例を挙げて,
・ここがポイント
各事例で問題になっている子宮腺筋症によるトラブルに対して,一般的にどのような点に注意をして対応するべきか重要ポイントを記載.
・治療の実際
上記の記載を踏まえて,実際に事例のような患者が来院した際の対応のポイントを記載.
・事例によっては,上記項目のない章や,より詳細な解説を載せている章もある.

 

事例:30 歳未婚の女性,0 妊0 産,性交経験あり.
主訴:月経困難症.過多月経なし.
 子宮は超鵞卵大に腫大し,画像上子宮腺筋症を認めている.現時点での挙児希望はない.

1 )ここがポイント

・年齢,挙児希望・妊孕性温存の希望の有無,病状により治療法を選択する.
・子宮温存希望がない場合には子宮全摘術が根治療法として確立している.
・子宮腺筋症の疼痛に対する治療法は,外科的治療とホルモン療法に大別される.
 手術療法は,薬物治療で症状改善が認められない場合や,合併症や副作用により薬物治療の実施や継続が困難な場合に考慮する.また現時点で挙児希望があるが強い疼痛のため不妊治療の継続もままならない時も,手術療法(子宮腺筋症摘出術.もしも挙児を断念するなら子宮全摘術)を考慮する.

2 )治療の実際

・妊孕性温存の必要があるため,まず適切な鎮痛薬の使用を行う.
・症状改善を認めない場合,この事例では現時点での挙児希望はないので,LEP 製剤,
ジエノゲスト内服あるいはLNG-IUS 留置を考慮する.

3 )子宮腺筋症患者の疼痛への対応

 図48 に子宮腺筋症患者の疼痛の取り扱い方針を簡潔にフローチャートにして示す.
・まず,疼痛を,月経痛,慢性痛,排便痛,性交時痛の4 項目につき,VAS(visualanalogue scale)を用いて評価する.また,長期的な疼痛の評価には月経手帳を用いる.そして,現在の鎮痛薬の服薬状況を詳細に聴取する.早めの鎮痛薬服用を指導するのみでも十分な除痛を図ることができる場合があり,また服用回数の多い事例では,作用時間の長いオキシカム系のNSAIDs との併用が有効な場合もある.適切な鎮痛薬の使用にても十分な改善が認められない場合は次のステップに進む.
・現時点で挙児希望がある場合にはART も視野に入れた積極的な不妊治療を勧めるが,強い疼痛のため不妊治療の継続もままならないときには,子宮腺筋症摘出術を考慮に入れる.
・現時点で挙児希望がない場合には,内分泌療法を考慮する.全身的治療に関しては,年齢により薬物を選択する.40 歳未満の場合LEP 製剤を第一選択とし,40 歳以上の場合はジエノゲストを第一選択とする.40 歳未満でも禁忌事項を有する場合や副作用のためLEP 製剤が使えない場合,およびLEP 製剤の無効例には,ジエノゲストを考慮する.ジエノゲストが無効な場合にはGnRH アゴニストを考慮する.局所治療であるLNG-IUS に関しては,適応を満たしていれば年齢を問わない.ただし,卵巣チョコレート囊胞を合併する場合には,全身的治療の方が望ましい.
・全身的治療,局所治療に抵抗する場合,子宮温存希望のない場合には子宮全摘術を,温存希望のある場合には子宮腺筋症病巣摘出術を考慮する.