(1)化学療法

1 )上皮性卵巣癌

・卵巣癌は早期発見が困難であり,症状が現れた時点で既に腹膜播種が骨盤内を超えて広がっている進行例(Ⅲ期以上)である場合が半数以上を占める.
・本邦では,年間9 , 300 人以上が罹患し,4 , 600 人以上が死亡する.卵巣癌年齢調整罹患率は1975 年の3 . 6(人口10 万対)から2012 年には10 . 5 と急増している.
・進行卵巣癌に対し,最大限の腫瘍減量術に引き続く化学療法は重要な意味をもつ.
・進行例であっても手術および全身化学療法による集学的治療によって治癒も期待できる.また,早期癌でも再発し得るため,術後化学療法の対象となることも多い.
・1980 年代から使用されたシスプラチン(CDDP)は進行卵巣癌の全生存期間(OS)を3 年に延長させ卵巣癌のkey drug となった.
・さらにパクリタキセル(PTX)が導入され,CDDP と併用したTP 療法により進行卵巣癌のOS は4 年に延長した.
・卵巣癌においてはCDDP とカルボプラチン(CBDCA)の有効性は同等であり,欧米の2 つの大規模RCT によりPTX+CBDCA 併用(TC)療法のTP に対する非劣性が証明され,CBDCA の方が消化器症状や腎毒性が軽度であることから新たな標準治療となった.
・上皮性卵巣癌における初回化学療法は,TC 療法がこの20 年の標準レジメンである.2000 年代にゲムシタビン(GEM),リポソーム化ドキソルビシン(PLD),トポテカン(TPT)などが開発され,卵巣癌に用いることができるようになったために,再発患者に対する二次治療以降の選択肢が増えるとともにOS はさらに延長している(図8)

・TC 療法を基盤として図9 のように様々なアプローチでの治療開発が行われている.
・術前化学療法(NAC)は予後を保ち,患者負担を減らす治療として確立されつつある.
・TC への上乗せが成功しているのは,血管内皮細胞増殖因子(VEGF:Vascular Endothelial Growth Factor)の阻害薬であるベバシズマブ(Bmab)である.TC との併用療法後に引き続きBmab で維持療法を行う治療が無増悪生存期間(PFS)を延長させた.

・PTX を毎週投与してdose-density を高め,より早く癌細胞を細胞死に至らしめるという理論のdose-dense TC (ddTC)が有意に生存期間延長を示し,日本では標準治療と位置づけられた.欧米で行われた追試では有意差を認めていない.
・腹腔内投与(IP)への期待も大きく,TC 療法のCBDCA をIP に変える有用性や腹腔内温熱化学療法(HIPEC)の有用性を検証する臨床試験の結果が待たれている.
・以上のように,現状だけでも投与薬剤,投与時期,併用薬剤,投与方法,投与経路などを工夫されながら治療開発が進んでいる.
・さらなる新規薬剤や免疫治療の導入が進むとともにバイオバンクによるバイオマーカー探索が進んで,プレシジョンメディスン確立がもっとも期待される.

2 )子宮頸癌

・子宮頸癌に対する化学療法は,同時化学放射線療法として放射線と同時に用いる,もしくは治癒が期待できないⅣB 期・再発症例にQOL 向上と延命を目的に用いる.
・CDDP を用いた同時化学放射線療法の治療効果増強は証明されており,本邦でも臨床試験にて安全性と有効性が確認された.この治療が普及し,近年の5 年生存率はⅢB 期では26%から52 %へ,ⅣA 期では19 %から36 %へと飛躍的に改善している.
・ⅣB 期・再発に対する化学療法は,CDDP に他剤を併用する治療の比較試験が繰り返され,TP 療法が標準治療のひとつとなった.本邦の多施設比較試験の結果からCDDP をCBDCA に変えても生存期間が変わらず患者のQOL が向上することが示され,PTX と併用したTC 療法が新たな世界標準となった.さらに,子宮頸癌に対するBmab の有効性とTP への上乗せ効果も証明され,新たな標準治療となっている(表1)

・Bmab はCDDP ないし,CBDCA との併用で薬物動態に差がないことが肺癌で明らかにされており,欧米でもJCOG 0505 の結果から利便性のよいTC がBmab と併用されている.しかし,放射線治療既往例では瘻孔形成などQOL 低下を招くこともあり,適用には十分な患者説明が必要である.
・今後はⅣB 期・再発を対象に有用性が明らかとなった化学療法レジメンを術前・術後化学療法などに用いた臨床試験を行い,子宮頸癌の新たな集学的治療体系を確立していくことが望まれる.

3 )子宮体癌

・食生活の欧米化や高齢化とともに,日本でも婦人科浸潤癌の中では最多の罹患数となり年間10 , 000 人を超えている.しかしⅠ期が約65%を占め,手術のみで治療が完遂することが多い.
・術後再発リスク因子および術後補助療法の適応には文献により若干の差異があるが,漿液性腺癌・明細胞腺癌・癌肉腫といった特殊組織型のほか,Ⅱ期以上はほぼ適応と考えてよい.それでも罹患数の半分に満たないほどである.
・2000 年初めに米国と日本から,従来の標準治療だった術後放射線療法とアンスラサイクリン+CDDP を用いた術後化学療法を比較した2 つのランダム化比較試験結果が報告され,化学療法の有用性が示されるに至った.それ以後,日本では再発リスク因子を有する対象に術後補助化学療法が行われている.
・key drug はCDDP,CBDCA,アドリアマイシン(ADR),PTX であり,2 剤併用が有用とされる.
・子宮体癌に対する標準治療は永らくADR とCDDP を併用するAP 療法であった.1990 年代の米国での臨床試験では治療関連死亡も報告されている.それ以後に制吐剤や持続型G-CSF が普及し,高齢者にも安全に用いることができるようになったが,副作用も考慮した治療選択の必要が残る.
・日本でのランダム化比較試験にて標準治療のAP に対しTC もしくはDP の優越性が検証された.3 群のOS はほぼ差がなく,治療完遂割合が最も高いのはDP でTCはむしろ低かった.高齢かつ糖尿病などを合併することも多い子宮体癌患者への末梢神経障害は重篤になることが多く,DP は新たな標準治療のひとつと捉えられる.

4 )その他

・絨毛性疾患や卵巣原発の胚細胞性腫瘍は化学療法のみで根治を期待できる婦人科悪性腫瘍である.絨毛性疾患はメソトレキセートやアクチノマイシン-D がkey drugとなり,胚細胞性腫瘍ではエトポシド,CDDP,ブレオマイシンを併用したBEP療法が標準療法である.
・肉腫に対する治療は手術療法が重要となるが進行例の予後は不良である.放射線治20療が奏効することは少ないため,有効性が高いとは言えないものの化学療法も必要となり,標準的にはADR 単剤,もしくはイホスファミドの併用投与である.子宮の平滑筋肉腫に限って言えばDTX とGEM の併用が標準とみなされている.最近では,分子標的薬剤であるパゾパニブ,さらに新たな殺細胞作用機序を有するトラベクチジンやエリブリンが薬事承認されている.肉腫は非常に多様性に富むため,バイオマーカー探索とプレシジョンメディスンの確立も待たれる.