日本の平時における周産期医療体制は,妊産婦が安心して出産ができるように,どの地域おいても,総合周産期母子医療センターを中心に,周産期母子医療センター,そして地域の一般病院・産科診療所・助産所が,それぞれ互いに連携し合うことによって,機能している.しかし,思いがけない災害時には, 災害時の緊急対応が必要であり,このような平時の周産期体制だけでは,妊産婦を救うことはできない.

 近年でも,東日本大震災,平成28年熊本地震は,想定外の激しい災害をもたらした.さらに,地球温暖化の影響により,巨大台風による水害や土砂崩れなどの大災害に遭遇することも増加している.

 このような大災害であっても,一般の国民はもとより,妊産婦,そして新生児,さらに産後の母子に対して,それぞれの施設と各地域は,この困難を乗り切ってきたという,極めて貴重な経験の蓄積をもつことになった.

 申すまでもなく,これだけ繁栄した日本であっても,地理的位置関係から地震が多発する国であるために,誰でも思いがけない災難に遭う可能性があることを忘れてはいけない.

 既にご存じのとおり,日本列島は,海と陸の 4枚のプレート(岩盤)境界に位置しており,東北日本には,年間約 10㎝の速さで移動する太平洋プレートの力がかかり,西南日本は太平洋プレートと年間約 4㎝の速さで移動するフィリピン海プレートの力が同時にかかっていて,日本は,常に圧縮されている位置にある.したがって,この海のプレートが陸のプレートの先端を引き込みながら沈み,そこにひずみがたまり,それが限界に達すると陸のプレートが一気に跳ね上がることで地震が発生することから,日本にとって地震は避けて通れない自然現象の 1つなのである.

 近い将来の発生の切迫性が指摘されている大規模地震として,最も恐ろしい 南海トラフ巨大地震や,首都直下地震などがある.それこそ,想定外の大被害 が予想されるとはいえ,今回上梓する「災害時における周産期医療」は,上記 の体験を踏まえて,平時に備えた置くべき災害時の対応マニュアルとして,大 変行き届いた,最も適切なアドバイスとなっている.一度,全体を必ず読んで, 日々の備えのために,役立てていただきたい.

 特に,重要なことは,各施設でこのマニュアルに基づいて,独自の災害訓練を行うことであり,その結果,震災時に,各自がいかに行動すべきかを学ぶことができる.

 災害時の問題は,実際に災害が起こった時に自分がどのように行動すべきかについては,訓練して身に着けておかねば動けない.この各施設で行う災害訓練は少なくとも年に 1~2 回は必ず実践しておいていただきたい.

 最後に,貴重な時間を割いて執筆にあたっていただいた諸先生方には深甚なる謝意を表したい.また,執筆・校正・編集などにあたっていただいた研修委員会の先生方,医会役員の諸君に深く感謝する次第である.

 

令和3年 12月会長         木 下 勝 之