今年2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開催される.近年,訪日外国人,在留外国人が増加していたなか,これに伴い,各企業がインバウンド・ツーリングの対策をとっている.医療でも外国人を診察する機会がさらに増加することが予想されているので,我々産婦人科医にとっても診療対策は必須である.
 診療での最初の壁は,言葉による意思疎通である.日本語どころか英語も話せない場合がよくある.通訳が立ち会っているかどうかにもよるが,それでも医学的な意思疎通が不十分なことが少なくない.医療通訳者が常に院内にいればいいが,わが国ではまだ体制が十分ではない.最近ではスマホでの自動音声翻訳ソフトも普及しているが,まだ医学用語は成熟していない現状がある.
 また,母国や民族が異なれば,文化,宗教など社会的背景が異なり,診療以前に接し方にも注意が必要となる.外国人に対する婦人科の内診,経腟的超音波検査時にも配慮を要する.例えばイスラム教徒(ムスリム)の女性は日本でも外出時に肌の露出を控えているが,イスラム圏では女性患者に対して医師,看護師などの医療者も女性での対応が求められている.
 また,外国人の医療費不払いも社会的に問題となっている.単純に医療機関や患者自身が仕組みを理解していないこともある.正規の渡航であれば,たいてい民間の保険に加入しているはずであるが,全く未加入の訪日外国人や不法就労者も受診することがあるので,その時の対応も周知していただきたい.一方で,医療訴訟対策も講じておかなければならない.今後はこれらを含めた外国人に対する診療体制の構築が必要であろう.
 今回はこのような時代背景を鑑みて,外国人患者さんの来院時の対応マニュアル,受入れに役立つマニュアル,危機管理マニュアルなど,いざという時に役立つ具体的な資料のリストを整えてある.外国人患者への対応と留意点を経験豊富な方々に具体的な対処方法も交えて解説していただいており,会員の先生方の臨床の一助となれば幸いである.
 最後に貴重な時間を割いて執筆していただいた諸先生方には深甚なる謝意を表したい.また,執筆・校正・編集などに尽力いただいた研修委員会委員並びに医会学術部・研修部会の担当役員・幹事に感謝する.

令和2年3月 会長 木下 勝之