がんリハビリテーション

・ がんそのものによる直接的な心身機能障害や,治療の過程で生じる機能障害などによって,移乗動作などの起居動作や歩行,セルフケアをはじめとする日常生活動作(ADL:activities of daily living)に制限が生じ生活の質(QOL:quality of life)の低下を来してしまう.
・ これらの問題に対し,症状の緩和や二次的障害の予防を図り,機能や生活能力の維持・改善を目的としてリハビリテーションを行うことは重要な役割を果たす.
表47 に,がん患者に対するリハビリテーションの対象となる障害の種類の例を示す.
・ 障害には,主にがんそのものによる障害と治療の過程において起こり得る障害に分けられる.がんそのものによる障害としては例として骨転移や脳転移による麻痺や高次脳機能障害が挙げられ,治療の過程において起こり得る障害としては例として廃用症候群や末梢神経障害,リンパ浮腫などが挙げられる.これらに対する障害に対してはリハビリテーションが重要である.

図48 に,がんリハビリテーションの病期別の目的を示す.

・ がんリハビリテーションは,予防的,回復的,維持的,緩和的の 4 つの段階に分けられ,すべての時期がリハビリテーションの対象となる.
・ がん患者の機能の維持,緩和だけでなく,機能障害に対する機能改善や機能障害予防に関してもリハビリテーションは重要な役割を果たす.
・ 早期からのリハビリテーション介入は,手術や化学療法・放射線療法などの治療中・後に生じる合併症の予防や廃用症候群などの機能障害の予防を図ることを目的とする.
・ 麻痺や高次脳機能障害など機能障害を呈した患者に対しては積極的なリハビリテーションアプローチが重要であり,必要に応じで車椅子・自助具などの福祉機器を活用する.
・ 自宅退院を目指す場合,介護指導や自宅環境調整などの在宅準備への対応も大きな役割を果たす.
・ リハビリテーションの介入によりある時期までは ADL の維持,改善を図ることができるが,病状の進行とともに ADL が低下していく時期が必ずくる.それ以降の時期は症状緩和や精神心理面のサポートが主体となる.疼痛・浮腫・呼吸困難感に対する症状緩和や「治療がまだ続けられている」という心理支援的な援助もリハビリテーションとして大きな役割を果たす.
表48 に,婦人科がん領域に対する 4 つの病期におけるリハビリテーションの例を示す.

・ 婦人科がんの特徴として,婦人科がんの好発年齢が 30~50 歳と他がんと比較すると若いことが挙げられる.30~50 歳の多くは働き盛り,子育て世代である.そのため,ただがんの治療をするのでなく,がんの治療に合わせてリハビリテーションを組み込むことが重要である.
・ 治療が始まる前にあらかじめ筋力や体力を維持向上させておくことで,治療によって生じる筋力や体力の低下を最低限にするための予防的リハビリテーションも重要である.
・ 手術後,尿失禁やリンパ浮腫に悩まされる患者も多く,これらに対する回復的アプローチも重要である.症状が悪化し機能障害が進行しつつある時期に維持的リハビリテーション,終末期には緩和的リハビリテーションを実施する必要がある.
・ がんと診断されてから看取るまで,がんの治療だけでなくリハビリテーションもかかわることで,リハビリテーションが患者および家族の身体的,精神的なサポートができる一助となることが当たり前になることを期待したい.