平成17年度 日本産婦人科医会情報システム委員会 答申

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□ 名簿



□ 電子会議についての検討


 

5. 産婦人科医療における電子化、ネットワーク化

 首相官邸直属のIT戦略本部の進める「e-Japan 戦略」により、医療分野での情報化は急速な早さで進んでいる。産婦人科領域は他科と違った特性があり、電子カルテにしても他科に共通しないデータ項目が多いことから独自の開発が必要であった。香川大学医学部付属病院医療情報部を中心に開発・実証が行われている産婦人科医療分野での情報化(周産期電子カルテやネットワーク化)は、全国の産婦人科医療施設へその成果が広まることが期待されている。情報システム委員会では原委員長の協力により以下の事業の進行状況・最新情報が報告され、日本産婦人科医会情報システム部として効力出来る体制を整えた。

(1) ネットワーク対応Web版周産期電子カルテの開発

 IT政策パッケージ-2005に明記されているように、今後の電子カルテは、Web技術を応用したネットワーク対応の電子カルテが主流になると思われる。今回開発したWeb版周産期電子カルテは、このWeb技術を応用した画期的なもので、インターネットに接続されたパソコンであれば、Webブラウザ(Internet Explorer)を用いることにより、全国全世界のどこからでも利用できることが大きな特徴である。特別なソフトをインストールする必要がないため、維持、管理費を非常に安価にすることが可能である。また医療情報はすべてセンターのサーバーに保存され、個々の診療所のパソコンにはデータを残す必要がないため、これまでの情報管理の煩雑さも大幅に軽減する。本年度より個人情報保護法が施行されたが、セキュリティー確保の観点からも大変使いやすいシステムと考えられる。
 昨年度、香川県の周産期ネットワークの機器更新の時期にあわせて、あらたに最新のWebサーバーが導入された。そこに今回開発したWeb版周産期電子カルテ(文部科学省科学研究費による)を搭載することにより、香川県の医療機関はもちろん、全国の医療機関がどこからでも利用できる様になっている。今年度より愛育病院(東京)では、関連医療機関とのあいだでオープン・セミオープンシステムをスタートさせているが、本電子カルテネットワークを導入することにより、より緊密な病診連携を目指している。
デモ用サイト

(2) セキュリティ確保のための医療用VPNネットワーク(UMIN-VPN)とHPKI(HealthcarePublic Key Infrastructure:保健医療福祉分野の公開鍵基盤)

 インターネット上で、Web技術を用いて医療情報を送るためには、厳格なセキュリティ確保と厳格な本人確認が大前提となる。2003年度に厚生労働省の研究班「電子カルテネットワーク等の相互接続の標準化に関する研究班」(班長:UMINセンター木内貴弘教授)により、セキュリティを確保した医療用ネットワーク(UMIN-VPN)が制定され、さらに2005年度には「医療VPNとPKIを併用した安全な医療情報交換インフラの構築と運用に関する研究班」が組織され、HPKI(HealthcarePublic Key Infrastructure)に関しても検討している。

(3) 地域の基幹病院、診療所への周産期Webサーバーの導入

 技術的問題になるが、Web版周産期電子カルテを利用する際、ネットワークの接続法に関して、当初は主に診療所での利用を考慮していたため、経費的にも安価に運用できる接続形態、すなわち各医療機関が香川県のWeb版周産期サーバーに、VPNにより直接接続する形態を考慮していた。しかし、その後各地域の基幹病院(千葉県亀田総合病院の様にすでに電子カルテが稼働している医療機関等)では、周産期サーバーそのものを施設内に設置し、自施設の電子カルテと機能的な融合をはかるとともに、さらに自施設の周産期サーバーを用いてその地域の医療機関と連携するという接続形態が採用されるようになっている。また、診療所(熱海市の安井医院、東京都町田市のベルンの森クリニック)においても、他の電子カルテやレセコンとの連携を考慮し、周産期サーバー一式を導入する施設も現れている。

(4) 大学病院等で稼働する大規模な電子カルテシステムとの連携

 大学病院等で稼働する大規模な電子カルテシステムにおいては、原則的にすべての診療科で共通に利用できることになっており、妊娠管理の様に数値情報を取り扱うには機能が不十分であった。また、他の産婦人科医療機関と電子カルテを用いた病診連携は全く実現していなかったのが実情である。本Webによる周産期電子カルテは、大病院の電子カルテシステムと患者の基本的な診療情報を相互に共有できることが大きな特徴である。
 香川大学医学部附属病院や千葉県亀田総合病院においては、病院内に周産期サーバーを導入し、病院内の電子カルテの端末から直接Web版周産期電子カルテを利用することにより、同じ電子カルテの画面上で、患者基本情報や検査情報等も共有されるため、異なる二つの電子カルテが一体化した感じで利用することが可能になる。

(5) 周産期ネットワークへの接続形態

 当面は、各地域、各医療機関の状況に応じて、香川県のサーバーに直接接続する形態、もしくは各地域の周産期サーバーに地域の医療機関が接続する形態の両者が考えられるが、将来的には日本全国の総合周産期母子医療センターに周産期サーバーが設置され、それらのサーバーの傘下に各地域の医療機関が接続され、各地域の周産期サーバーはさらにその上位で相互に連携する形態になると思われる。
今後、かがわ周産期ネットワークは、全国の周産期サーバーと相互に結び、全国規模の周産期データの交換センターとして機能することが可能である。

(6) 文部科学省と香川県による連携融合プロジェクト

 本年度より4年間の予定で文部科学省の特別予算で、香川県と連携してあらたに連携融合プロジェクトがスタートする。これまで、香川県で稼働している画像診断を中心とした「かがわ遠隔医療ネットワーク」と「かがわ周産期ネットワーク」の機能を強化、統合し、さらにセキュリティ確保を目的としてHPKI(HealthcarePublic Key Infrastructure:保健医療福祉分野の公開鍵基盤)を導入するものである。また、妊娠管理だけでなく、新生児期、小児期、学童期、そして子育て支援までを含めて、Web技術を用いたソフトを開発する予定である。
 来年度、九州大学中野名誉教授による厚生労働省班会議ではWebによる電子母子手帳が大きなテーマになっており、さらに埼玉医科大学田村教授とはWebによる新生児手帳を用いた新生児の予後の追跡システムを計画している。

(7) Web技術を用いた新たなサービスと今後の展開

 Web技術を利用することにより、今後非常に多方面での応用が考えられる。その一つにWeb技術による母体搬送情報提供システムがあげられる。いわば周産期電子カルテの簡易版としての機能を持つもので、日母標準フォーマットに準拠することにより、周産期電子カルテネットワークのデータベースとも連携可能で、周産期情報を伝達するだけでなく、地域ごと、医療機関ごとの年間統計の分析にも役立つ。
 将来、全国の産婦人科医療機関が、周産期電子カルテネットワークや母体搬送情報提供システムに参加したあかつきには、医療機関や各都道府県の年間統計はもちろん、全国の周産期統計なども容易に集計可能になる。
 Web技術により、妊婦自身が周産期情報に直接アクセスすることも非常に容易になる。現在我々が試験的に運用している周産期ポータルサイト(ママ大好きネット)では、周産期医療機関のマップに加え、妊婦が自宅や外来待合室で妊娠リスクの自己評価や、妊婦への指導内容を画像だけでなく、音声で聞くこともできる。

(8) モバイル端末ならびに携帯端末による在宅妊婦管理システムの開発

 ハイリスクの妊婦管理においては胎児心拍数の連続モニタリングが最も重要である。今回開発したパケット通信を用いたモバイル端末のシステム(iModeと同様のDoPa技術を採用)では、妊婦および医師側が病院、診療所以外のどこからでも、胎児モニタリングを可能にした。医師は携帯端末(iアプリ)を利用することにより外出先からでも、胎児心拍数を観察することが可能である。また本システムを周産期サーバーと連携することにより、Web版電子カルテ上で、在宅の妊婦のデータ参照も可能になり、その臨床的意義は非常に高い。現在、香川県以外でも、岩手県立釜石病院、東大病院、石川県等において、実際の妊婦の遠隔管理に利用している。

(9) 広報活動

 Web版電子カルテネットワークは、e-Japan戦略の方向性に合致することから、各省庁や都道府県からの視察も多い。今年度は香川県で日本産婦人科ME学会やITフェスタが開催されたこともあり、各方面に広報活動を行うことができた。今後は、全国の総合周産期母子医療センターとその関連医療機関や新規に開業する診療所を中心に導入を推進していきたい。またすでに英語版も制作中であり、国外においても日本の妊婦管理法を紹介する意味で広報活動を行う。