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第1章 低用量経口避妊薬(OC)とは
     (一般的有効性及び安全性)

 1.はじめに
 2.
OCの有効性及び安全性
  (1)
OCの有効性
  (2)
副作用
   a 
OCと血栓症・血管障害
   b 
OCと乳癌
   c 
OCと子宮頸癌
   d 
良性肝腫瘍
   e 
その他の副作用
  (3)
副効用
   a 
卵巣癌発生のリスクの減少
   b 
子宮体癌発生のリスクの減少
   c 
その他のリスクの減少

 

1.はじめに

 低用量経口避妊薬(以下「OC」という)は、含有ホルモン量が極力減少され、なおかつ避妊効果が十分であるように調整されている。ホルモン含有量の低下により、種々の副作用が軽減されているが、使用にあたっては、禁忌、慎重投与などに留意して処方されるべきである。

 近年、STDのまん延が注目され、なかでもHIV感染は極めて重大な社会問題となっている。OCは避妊のために処方されるものであり、これによってSTDが予防または治療されないことを、処方対象者に十分説明する。また、OCを処方するにあたっては、OC服用による安心感からSTDに対する予防が疎かにならないように努めなければならない。STDの感染防止の目的では、正しいコンドーム使用が有効であることを説明するとともに、定期的な検診を受けるよう服用者に勧奨する。

 

2.OCの有効性及び安全性

 (1) OCの有効性

 表1. 各種避妊法使用開始1年間の失敗率(妊娠率)(%)
 方 法
 理想的な使用*
(%)
一般的な使用**
(%)

経口避妊薬 

 

 5

  配合剤

 0.1
  

  プロゲスチン単味剤*** 

 0.5
  

殺精子剤のみ
(発泡錠,ゼリー,クリーム
***)

 6
 26

薬物添加IUD***  

 0.1〜1.5
 0.1〜2.0

コンドーム 

 3
 14

ペッサリー

 6
 20

リズム法 

1〜9
 25

女性避妊手術 

 0.5
 0.5

男性避妊手術

 0.10
 0.15

避妊せず(妊娠希望)    

 85
 85
*      選んだ避妊法を正しく続けて使用しているにもかかわらず妊娠してしまった場合 
   **    選んだ避妊法を使用しているにもかかわらず妊娠してしまった場合
   (経口避妊剤については、のみ忘れを含めた場合の失敗率)
*** 日本では発売されていない

 (2) 副作用

 服用に伴う一般的な副作用として、悪心、嘔吐、頭痛、不正性器出血、体重増加などがみられる。一般的には、OCの安全性は高いと考えられるが、健康な女性が対象となること、長期間服用されることから一層の安全性が求められる。とくに、頻度は稀であっても発現リスクを高める可能性のある重篤な疾患については、多くの調査・報告が行われてきた。OC服用のデメリットを表2に示す。

表2.OC服用のデメリット

     発生頻度への影響

血 栓 症

心血管障害

脳血管障害

乳   癌

子 宮 頸癌

良性肝腫瘍

(3〜4倍のリスク)

(2〜5倍のリスク)

(2〜3倍のリスク)

(1.24 倍のリスク)

(1.3 〜 2.1 倍のリスク)

(10万人当たり 3.4 人のリスク)

  a OCと血栓症・血管障害 

 OCの副作用である、血栓症、心血管障害、脳卒中は、重篤な結果を招くことがあり、早くからOCの最大の問題点として取り上げられてきた。とくに、その発生機序にはエストロゲンが主に関与すると考えられ、エストロゲンの低用量化を目指した研究開発が行われてきた。事実、OC投与は、肝におけるフィブリノーゲンをはじめとする種々の凝固因子産生を促し、その他に血小板、血管内皮にも作用し血液凝固を促進する可能性がある。OC服用中の女性における血栓症発現頻度は、低用量OCの普及に伴って近年減少傾向を示してはいるものの、非服用者に比べ3〜4倍程度増加するとされている。また、第三世代(黄体ホルモンとしてデソゲストレル、ゲストーデンを含む製剤)のOCは、レボノルゲストレル等のOCと比較して、静脈血栓症の相対危険率を増加させることを示唆する報告があるので、他の経口避妊薬の投与が適当でないと考えられる場合に投与を考慮することとされている。

 心筋梗塞、脳卒中はともに喫煙の影響が大きく、OCと喫煙はこれらの発症頻度を相乗的に増加させるため、少なくとも35歳以上で15本/日以上の喫煙者にはOC投与をしてはならない。また、喫煙の他に、血管障害発生の危険因子として、血栓症や血管障害の既往症、高血圧、糖尿病などの代謝性疾患、40歳以上の高年齢や、最近はリューマチ性心疾患なども挙げられており、投与に際し、これらをスクリーニングして除外すると、服用者の血管障害の頻度は現在の発生頻度より減少すると考えられている。血管障害の原因としては動脈硬化も重要な因子であり、これに関してはプロゲストーゲンの脂質代謝への影響が問題となっている。すなわち、エストロゲンはHDL-コレステロールを増加させ、LDL-コレステロールを低下させて動脈硬化に予防的に作用するが、プロゲストーゲンはその逆の作用を持っている。

  b OCと乳癌 

 欧米では女性11人に1人の割合で乳癌が発症し、女性の癌としては発症率、死亡率ともに第1位となっている。またエストロゲンが乳癌の発癌・増殖に促進的に作用する可能性は以前から示唆されており、OCと乳癌発症との関連が注目され、多数のcase-control study(症例対照研究)やcohort study(コホート研究)が報告されている。

 1996年、乳癌におけるホルモン要因に関する欧米の共同研究班は、25カ国で実施された54の疫学試験から症例数53,297例、対照群100,239例についての個々のデータの再解析の結果、現在OCを服用している女性のリスクは、OCを服用していない女性に比べ1.24倍であり、また、OC服用を中止してからのリスクは、中止後1〜4年で1.16倍、中止後5〜9年で1.07倍、中止後10年以降では1.01倍と報告している。対象製剤:低用量(エストロゲン:50μg未満)、中高用量(エストロゲン:50μg以上) 

  c OCと子宮頸癌 

 OCと子宮頸癌の関連性については、主に1970年代から1990年初めにかけて多数の研究(case-control study、cohort study等)が行われた。その内、多くの研究ではOCの服用により子宮頸癌の発症リスクが高くなると報告されている。しかし、それらの研究を比較するとOC服用によるリスクに安定した値が得られていない。その原因として、例えばcase-control studyでは、さまざまな因子(例:服用者及びそのパートナーの性行動)がバイアスとして影響を与え得ること、危険因子が特定されていないため研究により調査内容が異なること等によると考えられている。

 その後(1993年以降)今日まで、子宮頸癌発症の危険因子(複数)に注目した論文が数編発表された。それらのうち、記載内容や試験デザイン等から判断して適切な4論文をまとめると、OC使用経験のある人はない人に比べ子宮頸癌発症のリスクが1.3〜2.1倍になる。

 なお、子宮頸癌の危険因子として最も強いものは、HPV(ヒト乳頭腫ウイルス)であるとの報告がある。いずれにしてもわが国やアジア諸国では子宮頸癌の頻度は高く、OC服用者には定期的に検診することが望ましい。

  d 良性肝腫瘍

 良性肝腫瘍はそのホルモン量、服用期間、年齢(30歳以上)によって発生する可能性が高くなるといわれている。低用量OCを長期間服用した場合の頻度は人口10万人当たり3.4人と推定されている。この良性肝腫瘍は、発生しても症状がなく経過するため、腫瘍が大きくなり、破れたり出血することがあるので、OCを2年以上服用している場合は検査を行うなど注意が必要である。

  e その他の副作用

   1) OC服用によるホルモン依存性の副作用

 表3にホルモンに依存する副作用を示す。これらの副作用がみられた場合、OCの含有するホルモンの生物学的活性と量を考慮して、他剤に切り替えることによって解決することがある。また、女性のホルモン環境は主としてエストロゲンとプロゲステロンの2種類で構成されており、当然のことながらこれらのホルモンバランスが女性によって若干異なることを考慮しておく必要がある。例えば、エストロゲン優位、プロゲステロン優位、アンドロゲン優位なタイプなどに分けられるので、エストロゲン優位なタイプにはエストロゲン活性の少ないOCを、プロゲステロン優位な女性にはプロゲストーゲン活性の少ないOCを選択すべきである。また、アンドロゲン優位な場合、とくに思春期からの移行期でニキビや多毛などの男性化症状を示す場合には、男性ホルモン活性の少ないOCを選択すべきである。(表4)。

表3.ホルモン剤投与によりみられるホルモン依存性の副作用

 エストロゲン依存性
 プロゲストーゲン依存性
 アンドロゲン依存性
 
悪心・嘔吐
頭痛
下痢
水分貯留
脂肪貯留
帯下増加
経血量増加
肝斑
血圧上昇
 
倦怠感
抑うつ感
乳房緊満感
月経前緊張症様症状
性欲低下
経血量減少
 
体重増加
ニキビ
性欲亢進
食欲亢進
男性化症状

表4.生物学的ホルモン活性について、ノルエチステロンを基準にしたDickey(1994)の報告

プロゲストーゲン
黄体ホルモン活性*1
卵胞ホルモン活性*2
男性ホルモン活性*3
子宮内膜活性*4
ノルエチステロン
1.0
1.0
1.0
1.0
ノルエチノドレル
0.3
8.3
0.0
0.0
レボノルゲストレル
5.3
0.0
8.3
5.1
デソゲストレル
9.0
0.0
3.4
8.7
ノルゲスチメート
1.3
0.0
1.9
1.2
ゲストデン
12.6
0.0
8.6
12.6

*1 ヒト子宮内膜の空胞形成による(但し、デソゲストレル、ゲストデン、
  レボノルゲストレル、ノルゲスチメートはエストロゲンで前処置したウサギに
  経口投与したときの子宮内膜作用をレボノルゲストレル5.3と対比)
*2 ラット腟上皮法(経口) *3 ラット前立腺腹部法(経口) *4 女性の50%が20日間出血を抑制できる推定量

   2) その他の副作用

 ホルモン依存性の副作用以外にも、OC服用者における高血圧のリスクの上昇、耐糖能の低下(インスリンの感受性の低下)、ポルフィリン症、肝障害(胆汁うっ滞性肝障害)、脂質代謝異常(高トリグリセライド血症)、角膜厚の変化(コンタクトレンズの視力・視野の変化及び装着時不快感)などが報告されている。

 

 (3) 副効用

  OC服用には、副効用ともいうべきいくつかの利点が明らかにされている。

表5. OC服用に伴う副効用

発生頻度   

 貧    血

 良性乳房疾患 

 骨盤内感染症

 子宮外妊娠

 良性卵巣嚢腫

 子宮体癌

 卵 巣 癌

  a 卵巣癌発生のリスクの減少

 OCを服用している女性は、服用したことがない女性と比較すると卵巣癌のリスクは、疫学調査結果によるとOC服用3〜6カ月で0.6であり、予防効果が認められ、5年以上服用するとリスクは0.4、10年以上服用で0.2となり、服用期間に比例して、リスクは減少すると報告されている。さらに、OC服用の中止後少なくとも15年間はこの予防効果が持続すると報告されている。近年増加傾向にある卵巣癌に対する予防効果はOCの重要な利点の一つとなっている。卵巣癌の発生機序については明らかではないが、排卵のつど卵巣上皮は破裂、修復を繰り返しており、その結果細胞異常が起こり、異常増殖、腫瘍化の可能性が考えられている。OCの排卵抑制により卵胞破裂に伴う卵巣の傷害が減少すること、ゴナドトロピン分泌抑制により卵巣への刺激が減少すること等が関わっている可能性が考えられている。

  b 子宮体癌発生のリスクの減少

 子宮体癌についても、卵巣癌と同様に発生予防効果が報告されている。OCを服用している女性は、服用したことがない女性と比較して、子宮体癌のリスクは1年以上服用した場合0.6であり、このリスクはOC服用期間に比例して減少し、4年間の服用で0.4であり、OC服用中止後この予防効果は15年以上持続したと報告されている。

 また、子宮体癌は、未産婦に発生率が高いとされており、OCの効果は未産婦で最も顕著である。3回以上の経産婦では、OC服用の有無による発癌率の差は認められなくなる。

 この予防効果は、主にプロゲストーゲンの子宮内膜への直接作用によるとされているが、その明確なメカニズムはいまだ不明である。

  c その他のリスクの減少

 以上の他に、OCの副効用としては、貧血や骨盤内感染症、子宮外妊娠、良性卵巣嚢腫、良性乳房疾患などの減少が報告されているが、これは、OCによる経血量の減少、卵胞成熟や排卵抑制に伴う効果である。

 

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