(5)性機能不全について

ポイント

  • 不妊外来で性機能不全を見逃さないために,カップルの性生活について,性的な触れ合い(キス,お互いの身体や性器に触れる)を行っているか,性交(挿入・射精を伴う)をどのくらいの頻度で行えているか,など具体的に聴取する.
  • 性機能不全があれば,原発性か続発性かを確認し,原因の除去や,重症なら専門家に紹介する.

 不妊に占める性機能不全は近年増加している.性機能不全に適切に対処することで,不妊治療を回避できる場合がある.検査や治療に入る前に,「挿入」「ペニス」「勃起」「射精」など医学的な用語を用いて,不妊外来を訪れたカップルの性生活の詳細な状況把握に努める.不妊や婦人科診察自体が性機能不全の原因となり得ることにも注意する.カップルに性機能の問題が存在する場合のアルゴリズムを図4に示す.妊娠を優先するか,性治療を優先するかを確認し,カップルの希望や年齢など状況に応じて両者を並行して進めることも検討する.

図4.不妊外来における性機能不全の対応

1)性疼痛挿入困難症

 身体的因子および心理的因子が関与している可能性がある.腟挿入に対しての恐怖心がある場合,骨盤底筋が無意識に緊張している状態であると考えられるため,内診や挿入を無理に行ってはならない.婦人科診察が困難な場合は,骨盤底筋の弛緩の練習,外陰に触れる練習,自身やパートナーによる指や腟ダイレーター(図5)の挿入などの行動療法を行う.内診台に上がれるようになったら,カーテンを開け,会話をしながらリラックスを促し,痛みがないよう十分に配慮して診察する.SSクスコの挿入・展開,経腟超音波プローブの挿入が可能となった段階で,性治療と並行して不妊治療を行うことも選択可能となる.

図5.腟ダイレーター

2)腟内射精障害

 近年男性不妊の原因として最も多い.不適切なマスターベーション(特定の姿勢・状況でしか射精できないなど)や心理的葛藤(不妊や妊娠への葛藤,排卵日等性交時期の強要など)といった原因が考えられる.用手的刺激やマスターベーターを用いて,性交に近い状態で射精できるように段階的に訓練する.

3)シリンジ法

 マスターベーションで採取された精液を,シリンジを用いて排卵日に腟内に注入する方法.ほかの不妊要因がない性機能不全のカップルに選択肢として提案するとよい.

4)性機能不全のカウンセリング・治療

 重症例は専門家へ紹介する.日本性科学会ではセックス・カウンセラー/セラピストを認定し,性に悩む方々の相談や治療に対応する体制を整えている(https://sexology.jp/counselors_list/参照).性治療の詳細は日本性科学会編『セックス・セラピー入門性機能不全のカウンセリングから治療まで』を参照されたい.