Q2.児の娩出が困難な場合の対応は?

ポイント

  • 横位の場合は,児背の位置によって娩出の仕方を工夫する.
  • 視認せずに児の手と足の鑑別ができるようにしておくと役に立つ.
  • 児頭が骨盤内に陥入し,用手的に児頭誘導が困難な場合は,吸引カップや鉗子を用いて児頭を誘導する.
  • 胎位異常のほかに,子宮口全開大後など児頭が嵌入している場合や,子宮体下部に子宮筋腫を認める場合も児の娩出が困難となることがある.詳細は他項に譲る.

(1)横位

  • 児背の位置によりアプローチ方法が異なるため,手術前に超音波断層法にて児背が子宮側にあるのか子宮口側にあるのかを確認する.
  • 児の娩出が困難である場合,子宮縦切開やT 字切開が必要になる場合がある.そのため,皮膚は縦切開が望ましい.

1 )児背が子宮底側にある場合(Back up)(図19)

  • 子宮切開は子宮下部横切開でよいが,子宮筋層が展退していないために厚く,出血量が増加する可能性があることに留意する.
  • 破水すると子宮筋が収縮し,子宮内に児がトラップされ娩出困難になる場合がある.できる限り破水しないように子宮筋を切開する.
  • 児の足を触知し,破膜後直ちに把持できるようにしておく.
  • 破膜後,児の足を把持し,骨盤位にて児を娩出する.

2 )児背が子宮口側にある場合(Back down)(図20)

  • 児背が子宮底にある場合(Back up)と同様,児の足を把持し骨盤位にて娩出するが,児背に妨げられ,足を見つけることが困難となる.その場合,外回転または内回転を併用する.

  • まずは外回転を試みる.児頭と児背の位置を超音波断層法にて確認し,児頭を子宮底部に押し上げ,骨盤位になるようにする.その後子宮下部横切開を行い,骨盤位にて娩出する.
  • 外回転ができない場合は,子宮筋層切開後に内回転を行う.
  • 子宮筋層切開方法は,子宮下部横切開にすると児背に妨げられ,児の足にアプローチできず,縦切開を追加(逆T 字切開)せざるを得ないことがある.次回妊娠時のリスクを考慮し,初めから子宮縦切開(古典的帝王切開)の選択も考慮する.
  • 子宮筋層切開後,利き手と反対の手で児頭を確認し,子宮底に押し上げる.同時に利き手で足を把持し,骨盤位にして娩出する.
  • 子宮内に児がトラップされ,子宮内操作や児娩出が難しい場合は,ニトログリセリン静脈内投与によるラピッドトコライシス(迅速子宮収縮抑制)を行う.ニトログリセリンは作用発現時間,半減期ともに短い.投与60 秒以内に効果が発現し,約90秒でピークに達する.半減期も2~5分と短く,速やかに子宮弛緩効果は消失するため,弛緩出血により手術中出血量が増えることもない.1回あたり50~100μgずつ投与する.効果が不十分である場合は,合計250~500μg まで増量する.投与量が多くなると血圧低下を認めることに留意する.
     処方例)ニトログリセリンⓇ 1A(1㎎ / 2mL)+生理食塩水18mL → 50μg/mL
  • 子宮内で盲目的に操作をしていると,児の足と手の区別が困難であることがある.誤って手を牽引してしまうと元に戻すことが難しくなるため,牽引前に手と足を識別しておくことが重要となる.
  • 手が手首で前方や後方に折れ曲がっていると,踵と間違うことがある.指に触れてみて,5本の指の幅が均等であるのが足であり,指の長さが異なるのが手である(図21).日頃から目をつぶって新生児の足や手に触れ,どちらかを判別できるようにしておくと,いざという時に役に立つ.

(2)児頭が骨盤内に深く嵌入している場合

  • 用手的な児頭誘導が困難な場合は,吸引カップや鉗子一葉を用いて児頭を誘導する.吸引カップを用いる場合は,経腟分娩同様大泉門にカップをかけないよう注意をする.
  • 勢いよく吸引カップを牽引すると,吸引カップが滑脱したり,子宮切開創の通過が早すぎて,裂傷が広がり子宮動静脈に及ぶことがある.児がゆっくり娩出されるように術者は吸引カップを牽引し,助手は子宮底を圧迫するよう心掛ける.
  • 用手的な誘導が困難である場合を想定し,手術室にディスポ吸引カップ(キウイ娩出吸引カップⓇ)を常備しておくとよい.
  • 「第二期遷延,分娩停止の帝王切開時の注意点は?」の項に記したように,必要があれば,助手あるいは第三者に児頭や児肩を挙上してもらうことも検討する.