Q1.超早産児の帝王切開における注意点は?

(1)超早産児の帝王切開におけるポイント

  • 早産児,特に超低出生体重児はその未熟性のため正期産児に比較して,圧迫などのストレスで容易に低酸素・酸血症や循環不全などに陥りやすい(図56a).
  • 妊娠20 週台での帝王切開は児娩出時の様々なリスク(表11)があり,これらを回避するためには特別な配慮(低侵襲かつ愛護的な手技上の工夫)が必要である.
  • 超低出生体重児の帝王切開では,1)子宮筋を十分弛緩させる麻酔法および子宮弛緩法(rapid tocolysis)1~5),2)児を低侵襲かつ安全に娩出させるための子宮切開法(U 字およびJ 字切開)1,5~7),および,3)最低限のストレスで娩出させる児娩出法(幸帽児帝王切開)1,5~12)(図56b)の3点が重要である.

(2)早産帝王切開(特に幸帽児帝王切開)の特徴とポイント

  • 幸帽児帝王切開は児を胎胞に包まれたまま胎盤ごと子宮から完全に娩出させる完全被膜児娩出(狭義の幸帽児帝王切開)1,5,8)と児を胎胞に包まれたまま子宮から娩出させるが,胎盤は子宮から剝離しないため,児の大部分が子宮外に出た時点で破膜し児を娩出させる部分被膜児娩出(広義の幸帽児帝王切開)5,9)があり,状況に応じて使い分ける(図57).
  • 幸帽児帝王切開の目的は児へのストレスを低減する愛護的娩出であるため,目的が達成されれば完全被膜児娩出にこだわる必要はない.
  • 完全被膜児娩出は推定体重1,000g 未満,部分被膜児娩出は推定体重1,500g 未満を目安にする5).また,推定体重2,000g 未満で胎位が不安定(横位や足位など)な早産児帝王切開では無破膜帝王切開(子宮筋層切開時に破水させない)で行い,先進部を安定させてから破膜を行う.

(3)幸帽児帝王切開の実際と工夫

1 )術前準備

  • 子宮切開部位および方法,娩出方法(完全被膜児か部分被膜児か)の選択をあらかじめイメージするため,胎盤位置および胎位(特に児頭と児背の位置)を超音波検査で確認する.
  • 子宮切開は児背側に延長した方が娩出しやすい.また,途中で破水した場合でもsplint 法10)など児を保護した娩出法に切り替えやすい.

2 )麻酔法と子宮弛緩法

  • 脊椎麻酔や硬膜外麻酔で十分な子宮筋弛緩が得られない場合は,ニトログリセリン静脈内投与による迅速子宮筋弛緩(rapid tocolysis)を併用する2,4).
  • ニトログリセリンの作用発現は速やかで静脈内投与後1分以内に作用発現し,2分程度でピークに達する.半減期は短いため4~5分程度で効果がなくなる.
  • 子宮切開前にニトログリセリン50~100μg を静脈内投与し,十分な効果が発現するまで追加投与する.100~300μg 程度の投与量で効果的な子宮筋弛緩が得られる.
  • 投与後は血圧低下を起こしやすいため術前補液を十分行い昇圧薬(エフェドリン,フェニレフリン)の投与を必要に応じて行う.

3 )開腹法

  • 下腹部横切開,下腹部正中切開のいずれも選択できる.早産帝王切開では児への圧迫によるストレスを回避することが目的であるため,皮膚切開が小さいことによる児娩出困難は避けなければならない.
  • 下腹部横切開では,Pfannenstiel 法やJoel-Cohen 法で術野が十分に確保できない場合,必要に応じて腹直筋の一部を横切開する.また,十分な術野を確保するためにMaylard 法で開腹(腹直筋も筋膜と同様に横切開)する選択肢もある.

4 )子宮切開法

  • 必要かつ侵襲の少ない合目的な子宮切開法を最初から選択する(図58).
  • 切開創の長さおよび形状は,妊娠週数,推定体重,胎位により判断する.必要あれば体部縦切開も躊躇しない.
  • 無破膜子宮切開:最初からU 字をイメージして切開する.最初の切開は浅く広く(長く),その後切開を徐々に深く狭く(短く)行うことがコツである(図59)5).脱落膜を切開し絨毛膜に達すると絨毛膜が胎胞のように膨隆してくる.脱落膜近くまでメスで切開を加えたら,ペアン鉗子で鈍的に広げるように絨毛膜まで達してもよい.絨毛膜には切開を加えない(無破膜子宮切開)ことがポイントである.
  • U およびJ 字切開:下部横切開より左右の切開創を頭側へ向けてU 字になるようにクーパー剪刀で延長する.左右どちらかの切開線をさらに円靱帯方向に延長すればJ 字切開となる.切開創が大きくなった時でも左右の子宮動静脈を損傷する危険性を減少できる.
  • クーパー剪刀による子宮切開創の延長:左右への子宮切開創の延長はクーパー剪刀を用いた方が切開創の方向や長さをコントロールしやすい.破水してしまった場合は胎児傷の危険があるため指で切開創を延長する.やむを得ずクーパー剪刀を用いる場合は児の損傷に対して十分注意する.
  • 非侵襲的に速やかに児を娩出する観点から,娩出困難となってから逆T 字切開やL 字切開を加えて創を延長することは避ける.

5 )児娩出法

  • 圧迫によるストレスを回避するために愛護的に娩出する.
  • 十分な子宮切開創と子宮筋弛緩が得られた後,術者の片手を子宮内に挿入し破膜させないように卵膜を子宮筋層から剝離する.児の先進部を押し上げて横位とならないよう注意する.
  • 児の先進部(頭部もしくは殿部)を卵膜に包まれた状態で子宮外に誘導し,子宮収縮に合わせて愛護的に卵膜ごと被膜児として娩出させる(図60).
  • 児を引っ張り出すのではなく子宮収縮に合わせて自然に子宮から娩出するように補助する.
  • 児が半分以上娩出されたら術者の両手で胎盤および卵膜ごと幸帽児(完全被膜児娩出:狭義の幸帽児)として一塊に娩出させる5).胎盤は自然に剝離してくることが多いが,必要に応じて用手剝離を行う.用手的に剝離を行う場合は胎盤実質を損傷しないように注意し胎盤損傷による新生児貧血のリスクを減少させる.
  • 児が半分以上娩出した時点で,胎盤を剝離させずに破膜して児を娩出することも可能である(部分被膜児娩出:広義の幸帽児)5,9).
  • 途中で破水した場合でも慌てずに愛護的に児を娩出させる.子宮筋が十分弛緩していれば児へのストレスを最小限にできる.
  • 完全被膜児娩出(狭義の幸帽児帝王切開)にこだわるあまり子宮切開が大きくなりすぎたり,娩出に時間がかかりすぎたりなど,母児への侵襲が増えることは本末転倒である.
  • 幸帽児(完全被膜児)として娩出された児は,産科医が術野で破膜せず幸帽児のまま新生児科医に手渡され,インファントウォーマー上で新生児科医により破膜および蘇生が行われる1,8).胎盤内の自己血を新生児に輸血することも必要に応じて考慮される.
  • 児娩出(胎盤剝離)から蘇生開始までは平均30 秒程度であり臍帯血液ガスに影響は認めない3).

6 )閉創

  • U およびJ 字切開では通常の子宮下部横切開と同様に子宮筋層を2層に縫合する.
  • 逆T 字切開および縦切開の場合,縦方向の切開創に対しては2層目を漿膜と一緒にbaseball suture を行い癒着防止に留意する.
  • 逆T 字切開やL 字切開の場合,後天部位の阻血により縫合不全が起きやすいため,創縁を確実に合わせることと,きつく締めすぎて阻血にならないように注意する.
  • 閉腹は通常の帝王切開と同様である.

(4)おわりに

超早産児の帝王切開の留意点として,術前評価,麻酔法,子宮切開法,児娩出法(幸帽児帝王切開)について解説した.超早産児に対する帝王切開の目標は児への侵襲をできる限り少なく娩出することに尽きる.幸帽児(完全被膜児)帝王切開は1つの手段に過ぎず,麻酔法,子宮切開法,児娩出法,蘇生法までが一連の流れとして侵襲の少ない娩出方法として行わなければならない.さらに,早産児であるからこそ分娩直後のなるべく早期から母児接触を行うなど,未熟児を出産するという心理的不安を抱えた母親をサポートする姿勢も忘れてはならない.

 

文献

1) 村越毅,成瀬寛夫,大森元,入駒麻希,小幡宏昭,他.超未熟児における幸帽児帝王切開の工夫-セボフル
レン麻酔,子宮下部J 字切開,完全被膜児娩出-.産婦人科手術.10:55-63,1999
2) O’Grady JP, Parker RK, Patel SS. Nitroglycerin for rapid tocolysis: development of a protocol and a
literature review. J Perinatol. 20(1):27-33,2000
3) Redick LF, Livingston E. A new preparation of nitroglycerin for uterine relaxation. Int J Obstet Anesth. 4
(1):14-16,1995
4) 村越毅.産婦人科薬物処方の実際,分娩時の産科異常.過強陣痛.産科と婦人科.72(suppl):95-98,2005
5) Murakoshi T. “En Caul” Cesarean Delivery for Extremely Premature Fetuses: Surgical Technique and
Anesthetic Options. The Surgery Journal. 2020
6) 村越毅.超低出生体重児の帝王切開.周産期医学.33:1013-1016,2003
7) 村越毅.早産帝王切開時の対応-麻酔法,手技-.産婦人科の実際.53:2029-2035,2004
8) Pearson JF. “En Caul” cesarean section for delivery of the low birth weight baby. A Colour Atlas of
Childbirth & Obstetric Techniques. Wolfe Publishing Ltd. 137-141,1990
9) 高木耕一郎.幸帽児帝王切開法.臨床婦人科産科.51:305-307,1997
10) Druzin ML. Atraumatic delivery in cases of malpresentation of the very low birth weight fetus at cesarean
section: the splint technique. Am J Obstet Gynecol. 154(4):941-942,1986
11) Abouzeid H, Thornton JG. Pre-term delivery by Caesarean section “en caul” : a case series. Eur J Obstet
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12) Jin Z, Wang X, Xu Q, Wang P, Ai W. Cesarean section en caul and asphyxia in preterm infants. Acta
Obstet Gynecol Scand. 92(3):338-341,2013