(1)医療費の支払い方法・未払い対策

<事例 9 >
 観光にて訪日した妊娠16週の外国人妊婦が,不正性器出血を主訴に病院を受診した.絨毛膜下出血を認め,出血量が多いため入院管理となった.症状は改善し,3日後に退院となったが,妊婦が所有していたクレジットカードが病院では使用できず治療費が未払いとなった.
①旅行保険に加入している場合,どのように対応をしたらよいか
②旅行保険に加入していない場合はどのように対応をしたらよいか
③未払いを防ぐためにはどうしたらよいか

Answer

①加入者番号・24時間のサポートデスクに電話やメールで連絡し,直接の支払いや支払い確約書の発行を依頼する.
②③本国の家族(不明な場合は同行者,ツアー会社,大使館の協力を得て)へ連絡し,支払いの協力を依頼する.いずれの場合も,医療情報開示同意書に署名をもらうか,協力要請についての同意を得たことをカルテに記録することが大切である.
 分割払いにする場合は,医療機関に対してではなく,銀行や家族などに借りるよう依頼する.分割払いの支払い確約をしても,帰国後の口座振込は手数料が高額なため,完済されず未収となるリスクがある.

<事例 10 >
 日本企業Aで不法就労をしている外国籍の女性が,大量の不正子宮出血のためクリニックを受診したが,お金をもっていないという.
①クリニックの事務は何をすればよいか?
②クリニックの医師は何をすればよいか?

Answer

①支援者となる友人や勤務先の担当者へ連絡をするよう依頼する.患者が自力で対応できない場合は,同意を得た上で連絡の代行をする.全く支払いが不能な場合や,退院後も未収金となった場合,自治体に外国人医療費の補てん事業があれば申請を行う.
②医療上必要な対応を行う.検査や治療に選択肢や時間的余裕がある場合,患者にその意向をたずねる.希望があれば対応可能な医療機関への受診の支援を行う(言語サポート,支払い対応に慣れている医療機関など).

(1)医療費の支払い方法・未払い対策

 未収金の発生防止で重要なのは,受診時にこれから受けようとしている医療サービスの内容とそれによって発生する支払いについて理解と同意を得ることである.事後に提示された金額に驚いて支払いを拒否されたり,支払わずに退院・帰宅されてしまう事例も実際にあるので,まずは必要な資料の準備,対応アルゴリズムを整えて,紹介受け入れ・診療申し込みの時点から未収金リスクを回避する.
 健康保険や給付制度を利用する場合でも,一定額の自己負担金は発生するので,在留資格や健康保険があっても未収金対策を講じることは必要である.言葉の障壁や経済的な問題によって医療アクセスが妨げられると,早期診断・治療の機会を逃し,結果として母子の安全が脅かされるだけでなく医療費の総額も大きくなりやすい.
 院内で行う体制整備は以下のようになる.いずれも会計窓口や医事部門の協力が必要であるため,「どのような外国人が,どのように受診し,どれくらいの支払いが発生するのか」を過去の受診データや地域の外国人動向を踏まえて準備することになる.

1 )概算額の説明資料

 基本的な検査セットの価格を示した日本語と外国語併記の説明書を作成し,その金額に何が含まれているのかが分かるようにする.選定療養費や時間外受診での加算など日本独自の仕組みはトラブルの原因になりやすい(図37).

2 )支払いの方法を確認する

 診療申し込みの時点で,写真付き政府発行の身分証明書で本人確認を行い,また現金かカード支払いかを確認する.クレジットカードを登録制にし(図38),万が一支払いが行われなかった場合は登録カードからの引き落としの同意確認を診療申し込みとセットにするか,3)で述べる保証金(前金)制度を検討する.

3 )保証金(前金)システムの併用

 時間外受付での会計対応として,一定金額を保証金として預けてもらう方法がある.未払いのリスクを回避するため,会計部門での選択肢として準備をするとよい.
 分娩申し込みでは36週の健診時に,妊婦の居住地の出産一時金との差額分を前金として,支払ってもらう.人工妊娠中絶の場合は,申し込みの時点で全額または一部を保証金として支払ってもらうことが可能である.

4 )海外の旅行保険・医療保険での支払い範囲の確認

 一般に旅行保険は急な体調不良での受診を想定しているので,糖尿病などの基礎疾患の悪化や妊娠事例については保障の対象外のこともある.保険に加入している場合は,本人や同行者に保険会社に連絡をして,保障される支払い内容を確認するように促す.保険会社がカバーする場合,上限額の設定,本人が立て替えて払うのか,保険会社が直接医療機関に支払うのかを,海外のコールセンターと英語で直接やりとりするか,または日本の医療機関が日本語でやりとりできるよう支援する代行会社と連絡をとって確認する.

5 )本国家族への協力依頼

 本人が現金やクレジットカードをもっていない場合,外国でつくられたクレジットカードが使えないような場合,本国の家族に代理で支払ってもらえないか依頼することも可能である.患者とのコミュニケーションが難しい状況において家族の支援を要請する際には,大使館や領事館へ相談し,家族との連絡方法を確認する必要がある.

6 )在留資格・保険の有無と日本の制度利用

 在留資格によって利用可能な制度は異なる.したがって,医療相談員や行政の担当者の協力を得て,当事者へ利用可能な制度に関する情報提供を行うことも,医療機関における未収金防止や母子の安全・健康支援のために必要である(表9).