1.総論

 流産の原因は,妊卵・胎児側の異常と母体側(父親含む)の異常に大別される.早期流産は妊卵の異常によるものが多く,後期流産では母体の異常が多くなる.教科書的には(表1)のような原因が挙げられているが,エビデンスの乏しいものも多い.

(1)妊卵・胎児側因子

1 )染色体異常

○早期流産の半数以上は妊卵の染色体異常である.
○かつて50%が染色体異常といわれていたが,最近のマイクロアレイを用いた研究では60~70 %が染色体異常であった.
○母体の高年齢化に伴い増加し,40 歳以上の流産では80 %以上が妊卵の染色体異常である.
○内訳はほとんどが数的異常であり,トリソミーが最も多く,次いでモノソミー,三倍体,四倍体と続く.稀に構造異常,モザイクがみられる.
○反復・習慣流産の原因を検索する場合には,流産胎児・絨毛の染色体検査が推奨されている(産婦人科診療ガイドライン産科編2017,138 頁参照).

(2)母体側因子

○母体に元来存在する疾患が原因になる場合がある.
○原因が取り除かれないと再び流産を繰り返すことになる.
○不育症・習慣流産と一部の病態が共通する.
○感染症,ストレス・心理的要因,喫煙,過剰なカフェイン摂取なども原因になる.

1 )子宮疾患(13 頁参照)

○表2 のうちエビデンスが明確なのは子宮形態異常,なかでも中隔子宮である.
2 )抗リン脂質抗体症候群(APS:Antiphospholipid syndrome)
○習慣流産の原因として知られているが,散発性流産の原因にもなり得る.
○妊娠10 週以降の流産をみた場合,他に明らかな原因がなければ本症も想起する.
○2 回目,3 回目の流産では抗カルジオリピン抗体,抗β 2 GPI・カルジオリピン複合
体抗体,ループス・アンチコアグラントなどの抗リン脂質抗体検査が推奨される
(保険適用は習慣流産のみ,同一日にすべては保険上不可).

3 )夫婦染色体異常

○均衡型転座などの構造異常は,一般集団400 人に1 人の割合で発生するといわれて
いる.
○習慣流産カップルの5 %に夫婦いずれかの染色体構造異常(均衡型相互転座,ロバー
トソン転座)が認められる.

4 )内分泌代謝異常

糖尿病,甲状腺機能異常などが原因となる.

5 )感染症

○すべての病原性微生物による感染症は流産の原因になり得る.
○早期流産の15%,後期流産の66%が感染症に起因する.
○実臨床で流産の原因が細菌やウイルス感染であると断定できることは少なく,起因
菌が同定できないことが多い.
○腟内の正常細菌叢が病原菌に置き換わる細菌性腟症は,早産との関連性が示唆され
ているが,流産,特に後期流産との関連もある.
○最近示された流産との関連性が示唆される病原微生物を(表3)に示す.

6 )ストレス・心理的要因

○精神的なストレスが流産と関連することには多くのエビデンスがある.
○流産による不安,抑うつなどが次回流産と関連するという報告もある.
○こうした場合,(TLC:Tender Loving Care)が有効であるという(75 頁参照).

7 )嗜好・環境要因など

①喫煙
○ヘビースモーカーの流産率は非喫煙者の2 倍であるといわれている.
○特に後期流産との関連が高い.
○胎児の心奇形発生率を有意に増加させるなど,母児の健康を悪化させることは間違
いない.
○妊娠中の喫煙は厳に控えるよう指導するべきである.
②アルコール
流産と関連するというエビデンスはないが胎児アルコール症候群と関連する.
③カフェイン
最近のメタ解析では,多量(350㎎ / 日以上)の摂取は流産のリスクを高めるという
報告もある.
④その他
化学物質,肥満,やせなどが原因になるといわれるが明確なエビデンスはない.