3.閉腹

(1)腹膜縫合

  • 腹腔内にガーゼ遺残・器械遺残がないことを確認後,3-0 合成吸収糸などを用いて連続縫合する.
  • 腹膜縫合の是非には明確なエビデンスはなく,腹膜縫合を省略しても術後癒着リスクは増えず,手術時間の短縮や術後疼痛の軽減につながるとの報告もある一方,術後癒着リスクが上昇するというメタ解析もある.わが国ではほとんどの施設で縫合閉鎖されていると思われる.

(2)筋膜縫合

  • 筋膜縫合を確実に行わないと腹壁瘢痕ヘルニアのリスク因子となることはよく知られている.
  • 通常,0号もしくは1号の合成吸収糸での縫合閉鎖を行う.
  • 正中縦切開では縫いしろを少なくとも1㎝取り,1㎝間隔で連続縫合する方法が推奨されている.筆者らは1号モノフィラメント遅延性吸収糸での連続縫合を行っている.
  • 開腹時に分離した腹直筋を単結節縫合で寄せる手技は術後の疼痛が増すだけで利点はないと報告されている.

(3)皮下組織縫合

  • 皮下組織縫合の前に,温生理食塩水による洗浄を行い,細菌数の減少と感染源となり得る組織debris の除去を行う.
  • WHO のSSI 防止ガイドラインや米国CDC のガイドラインでは,約30 倍に希釈したポビドンヨード水溶液で2分間洗浄した後,生理食塩水2L で洗浄する方法などを推奨している.
  • 洗浄を行うことで止血血栓が除去され出血が認められる場合もあるが,血流温存のためピンポイントで最小限度の凝固止血にとどめる.
  • 皮下組織の厚みが2㎝を超える症例では,皮下脂肪層を合成吸収糸で単結節縫合し死腔を形成しないことで,術後の創離開リスクを3分の1に減らすことができるという報告もある.ただし脂肪組織の癒合には血流も必要であり,必要以上に強いテンションをかけないよう,0号吸収糸などで数針大きく縫合し,結紮時はloose に縫合創を合わせるイメージで閉鎖する.
  • また,皮下ドレーン留置・低圧持続吸引を行い,脂肪融解液の貯留を予防することで,創離開や感染を予防する方法も効果的である.

(4)真皮・表皮縫合とドレッシング

  • スキンステープラーより真皮縫合の方が術後の創部離開リスクが低いため,現在では真皮縫合が推奨されている.
  • 筆者らの施設では4-0 モノフィラメント遅延性吸収糸で7~8㎜程度の等間隔での埋没単結節縫合を行っている.
  • 腹壁創部は瘢痕が形成されやすいため,上記埋没縫合での減張と,表皮に対する減張を目的とした創テープ(アトファインⓇなど)による表皮閉鎖も加えている.
  • WHO のSSI 防止ガイドラインでは,肥満症例などの創感染ハイリスク症例においても,特別な創保護剤(ハイドロコロイド,ハイドロアクティブ,銀含有保護剤)は必要とせず,標準的な被覆材による創保護を推奨している.
  • 創部の消毒は,今日では推奨されていない.
  • 筆者らの施設では,術後48 時間の上皮化が行われるまでの良好な湿潤環境を保つため術後3日目まで被覆材を貼付し,以後は開放し,1度も消毒は行わず,シャワーなどでの自己創部洗浄を励行している.
  • 最後に,当科での帝王切開時の使用物品について表3にまとめて示す.

 

参考書籍

以下に近年発刊された手術書を記載する.
・「産婦人科手術スタンダード」日本産婦人科手術学会編 MEDICAL VIEW
・「OGS NOW 3 帝王切開術 基本と応用まるごとマスター」竹田省ら MEDICAL VIEW
・「OGS NOW basic 3 いきなり帝王切開術 局所解剖を熟知し,コツを盗もう」竹田省ら MEDICAL VIEW
・「産婦人科 手術療法マニュアル 産科と婦人科 増刊号2009」診断と治療社
・「帝王切開の強化書 Kaiser を極める」吉田好雄ら 金原出版株式会社