(6)治療

 排便障害の治療には,漢方薬が役立つことが多い.例えば,月経前7~10 日の間 は,腸蠕動の低下による腹部症状や,便秘・頭痛・むくみといった利水に関係する症 状,さらに精神症状も加わるため,いわゆる西洋薬では各症状に対応する多剤併用が 避けられない.しかし,漢方であれば,加味逍遙散と五苓散の組み合わせ処方のように, 1~2種類の方剤で多彩な症状に対する対応が可能である.西洋薬は大きく(大腸)刺 激性下剤とそれ以外に分けられる.刺激性下剤は即効性があるが,連用による耐性や 習慣性が問題となる.その他の下剤で多く使われているのは浸透圧性下剤である.『慢 性便秘症ガイドライン』1)では,浸透圧性下剤と胆汁酸トランスポーター阻害薬,上 皮機能変容薬が推奨されている.また,排便障害においても,単に排泄を促すだけの 薬剤を連用するのではなく,食物繊維や水分摂取量を増やすといった生活習慣の改善 や,骨盤底筋群を鍛えることも重要である.便失禁では,産科的要因に対する肛門括 約筋形成術や,肛門括約筋の損傷や衰えに対する,骨盤底筋訓練法や薬物療法,脛骨 神経刺激療法が検討される 9)(図 23)

1)生活習慣の改善,食事指導・食事療法,運動療法  2)基礎疾患・原因疾患治療  3)薬物療法  4)手術療法  図 23.便秘・腹部膨満治療

 慢性的な下痢を認める場合,まず原因となる薬剤・食事・全身疾患がないか確認し,原因の除去を図る.その上で消化管の感染,器質性疾患(炎症性腸疾患,セリアック病,腫瘍など),病的な胆汁暴露の有無についても確認し,それらの疾患の治療を行う(図 24).いずれにも該当しないものが狭義の慢性下痢症または下痢型過敏性腸症候群となる.慢性下痢症の治療では,ロペラミド塩酸塩は効果があるが,副作用である重篤な新イベントに留意が必要である.わが国ではタンニン酸アルブミンが用いられることが多いが,エビデンスには乏しい.5-HT₃ 受容体拮抗薬や抗コリン薬もエビデンスは少ない.漢方療法も臨床試験は少ないが桂枝加芍薬湯,半夏瀉心湯が有効とする報告がある.下痢型過敏性腸症候群に対してはマレイン酸トリメプチンの有効性が示されている 10)

1)飲食内容の確認と改善,生活習慣の見直し,月経周期確認,ストレス緩和,冷え対策  2)原因疾患の治療・原因薬剤の調整(薬剤性・感染症・虚血性腸炎・炎症性・膵炎・内分泌疾患・腫瘍)  3)治療法 内服/補液・電解質補正/亜鉛補給  図 24.下痢治療